Destiny 〜第1話〜     人知を超えし力


「・・・ここは一体、何処なんだ?」


森の中、ポツリと聞こえる1つの声・・・。

青い頭髪に少し憂いを残した若々しい顔・・・そして、1番特徴的な長い耳。

軽鎧と重々しい幅広剣を身にまとい、森の中をさまよっている1人の男。

周りを見渡したり考え込むようなしぐさを見る限り、道を迷っているということが分かる。


「確か、俺はカルフォニアに向かおうとしたんだが・・・。 」


しかし、そうと言ったところで村どころか街道すら見えてこない。

”と言う字が3つ合わさり””と言う字になる・・・、

彼の目の前には、それを現すかのように、木々の塊のみが視界に写っていた・・・。

爽やかな風が吹き、小鳥のさえずりが聞こえる気持ちのいい森の中、

森林浴にはもってこいの場所なのだが、迷っている彼にとってはイラつかせる原因でしかない。


「・・・ハァ、やっぱヴァニラと一緒に行動すべきだったな・・・。 」


ため息交じりで、またポツリとつぶやく・・・。

しかし、そんな事を言ったところで事態が好転する様な気配はない。

その男・・・レイス・D・ラグナイトは、それでもいつ抜けるか分からない森の中をさまよっていた。

レイス・・・亡霊と言う名を持つこの男は、この世界にいる、政府公認の何でも屋・・・、

通称、冒険者と呼ばれる者の一員であり、惑星エアリアス最大の大陸、

水の大陸とも言われるウォスカ大陸の片田舎・・・カルフォニアに依頼の為、滞在している。

片田舎だけあって、普段は平穏で小さな村だが・・・。


「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


・・・時としてその平穏はいきなり崩れるようだ。

少女の悲鳴が平穏の森の中にこだまする・・・当然、レイスもそれを聞き取り駆けつけるが・・・。

そこにいたのは、いかにもっていう感じの男ども3人と、それに追われている1人の少女。

後ろに結んだポニーテールを弾ませながら、息絶え絶えでこちらに突っ込んでくる。

そして、当然の如くレイスに助けを求めるのだが・・・。


「あ!あなた、丁度良いところに!ちょっとこのか弱い美少女になってくれない?」


と言いつつ、後ろの隠れる‘自称’か弱い美少女。

当然、レイスは何も言ってはいない・・・唖然として少女を見ているだけだった。

しかし、有無を言わさず、その少女を守る騎士の役を演じさせられる。

あっという間に男どもも追って来た為、拒否権など皆無だ。


「ふん、てめぇ、そのアマかばおうってんのか?ケッ!男らしいねぇ。」


殺意十分という感じで、にらみつける野郎ども・・・。

はっきり言って、汚らわしい以外感想が出ない輩たちだ。

己の獲物を嘗め回す者、にたにたと笑いながら睨み付けている者、

よだれを垂らしながら睨み付けている化け物まがいの者・・・・。

どいつもこいつも品格がまるでない、チンピラそのものだった。


「お前達、よってたかって女1人追いまわして・・・変態か?」


挑発的にレイスは口を開く・・・相手も、それに反応したらしく

こちらに殺意を向けてくる・・・単純な奴等である。


「てめぇ、この周辺最強と言われる‘シェード・ブラッド団’を知らねえのか!?」


どうやら、口だけは達者のようで・・・・。ありきたりな、脅しを吹っかけてきた。

流石にレイスも呆れ顔だ・・・。確かに、そこらの一般市民くらいだとその言葉で逃げ出すだろう。

しかし、彼は様々な依頼をこなしてきた少しは名の知れた冒険者である。

3人とはいえ、素人まがいなチンピラごときに負ける道理はない。

レイスの頭の中にも、嫌味の一つが浮かんでくる。


(”この辺最強”?・・・それが何の意味がある。
 仮に組織がでかくとも、お前たちが強いわけではあるまい・・・・。)


そして、そう思いつつも、レイスは奴等を更に挑発する。


「・・・・女の尻を追っかけてる野郎のどこが最強か教えてもらいたいもんだね!」


この言葉で、野郎どもはプッツン切れたのか、もはや怒りはピークに達していた。

顔のそこらに青筋が浮き出て、ますます化け物じみてくる。

そして・・・、


「んじゃ、教えてやるよ・・・。ただし・・・、自分の命と引き換えになぁぁぁぁ!!!」


と、言いつつ襲い掛かってくる3人組、手にはしっかり長剣が握られて・・・。


「ったく、よよいの、よっと!」


レイスもそれに対応しないわけにはいかない、剣を抜き放ち相手に迎え撃つ。

といっても殺すわけにもいかず、結局は手持ちの剣で峰打ちスマッシュ!

まずは、1番に襲い掛かってきた通称”男A”の切り払い!

バックステップの感覚で後ろに軽く避け、反動をつけ脳天に一撃!

これで、”男A”はバタンキュー・・・。

続いて、少し細めの通称”男C”の攻撃!

いつの間にか、後ろについていたらしく、”しめた!”という顔で襲うも、

殺気が十分で既にバレバレ・・・・。上段からの唐竹割を横に避け、

少し、回転をつけつつ、横腹に一撃!・・・これで、”男C”もノックダウン・・。

そして、残った、通称”男B”だが・・・、


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


仲間を倒され、パニクったのか破れかぶれに突進してくる。

しかし、かわされた先に見えるは、巨大な杉の木、そしてお約束・・・。

下手に勢いがついていたのか、予想外の衝突音の後、木にもたれるように倒れる男B・・・

こうして、残された1人も見事にブラックアウト。


「ったく、なっちゃないな。」


レイスが剣のホコリを取りながら鞘に戻すと、少女はこちらを見ていた。

あのチンピラを倒すのがよっぽど意外だったようだ・・・・。


「あ、あなた、強いのねぇ、身代わりになってくれれば十分だったのに・・・。」


少女がレイスに対し、驚いた様に言い放つ・・・なんて女だ・・・。

レイスがその発言に苦い顔してを少女を見るが、

少女は、そんなこと気にせずにこちらに笑みを浮かべつつ話を続ける。


「ま、助けてもらったし、お礼しないとね。ええっと・・・。」


少し、少女の言葉が詰まる・・・レイスが名乗っていないから当然といえば当然だが・・・。

それに気づいたレイスが、少女に対し自分の名を名乗る。


「レイスだ、レイス・D・ラグナイト。」

「そう・・・レイス、ありがとね。ここらじゃ見ないけど、旅の人?」


レイスがそう言うと、少女は改めてレイスに対し礼を述べる。

助けられたのがうれしかったのか、少女には相変わらず笑顔でこちらを見ている。

じっとこちらを見られている為か、レイスは少し照れた感じで少女に答えた。


「あ、ああ、俺は冒険者だよ。この村には、依頼できたんだ。」


確かに・・・・こんな辺境で軽鎧に剣と言う冒険者スタイルはあまりいない・・・。

そう考えるのが自然なのだ。少女も納得した感じでうなずいた。

・・・が少し、少女の顔に陰りが見える。


「・・・それじゃ、お仕事の邪魔しちゃったかな?」


少女の不安はそれだった・・・意外に律儀なものである。

しかし、レイスは気にした感じをせずに少女に答える。


「いや、そうでもないさ。こいつらから、組織の情報をつかめば設けもんだしな。」


レイスがそう言うと、少女は安心したようで、笑顔を取り戻した。

こちらとしても、こいつらから情報を得られる・・・結局、どっちにとっても有益なのだ。

と言うのも、レイスは、さっきのチンピラの集団の壊滅をウォスカ国家よりを依頼されたからだ・・・。

シェード・ブラッド団・・・・・最近、カルフォニアに出没する盗賊団で、

結構な規模の盗賊団なんだそうで・・・。今は、カルフォニアしか襲ってないようだが、

実際、この集団が増えだしたら、ウォスカ中に悪影響が出る・・・。

そうなる前に叩いて壊滅させねばならない・・・悪い芽は早めにつんだほうがいい。

しかし、レイスの頭に少し疑問が浮かんでいた。

さっきの集団程度ならば、高い賞金をつけてまでギルドに依頼しなくとも、

ウォスカ国家自身が兵を送りつけてもらった方が早く方がつく・・・。

何故、こちらに依頼が来たのか・・・、レイスは少し疑問に思ったように顔をしかめる・・・。


「ん?」


顔をしかめつつ考えていたら人の気配がしてきた・・・。

少し警戒するレイス・・・まだ、さっきの仲間が残っているかもしれないからだ・・・。

しかし、現われたのはそれとは思えない清楚な女性だった。


「物音がしたから、こっち来てみたら、レイじゃない!どうしたの?」


レイスを知っているように話しかけてくる、眼鏡の女性・・・。

レイス自身も、彼女を知っているのか少し安堵の表情を見せた。

名前はヴァニラ・クレセート、レイスの現パートナー、

パートナーといっても、異性関係とかそういう関係ってわけではなく、

別の意味合いを持つ・・・冒険者というのはだいたい2・3人で行動しているからだ。

理由は単純、その方が身の危険に対処しやすいから・・・。


      40分後。


「あのゴロツキ、ロクに情報くれなかったわね。」


ヴァニラに事情を話し、さっきのゴロツキを尋問する。

・・・が、聞けたのはアジトの場所くらいで、後は、なんら情報を話さなかった。

というか、自分らのような下っ端じゃロクに分からないとかで、たいした情報が聞けなかったのだ。


「ま、アジトの場所を聞けただけでも儲けものだろ。」


少し残念そうなヴァニラだが、それでも情報を得たことには変わりはない。

レイスは、ヴァニラよりは楽観的な態度だった。

で、当然、今はそのアジトの前。

白い塀に囲まれてアジト自体は見えないが、かなり大きな建物のようだ。

少しばかり、武装をしたチンピラが門の前を見張っている。

その数、5〜6人といったところ何とかなる数だが・・・。

ここで戦闘しようものなら、まず他の仲間が出てきてこちらが圧倒的に不利になる。

かといって、他には入り口らしくものは無い・・。


「・・・思ったより警備が厳重ね。入口らしい所もあそこぐらいしか無さそうだし・・・。」


ヴァニラが困った様に口を開く。

確かに・・・・・・村で情報を集めても、あの建物に関するたいした情報はなかった・・。

村の若人はおろか熟年者でさえ、それについて語るものはいなかったのだ。

それは、古くからあるあの屋敷について知識が無いというわけではない・・・。

今の主からに対する、報復を恐れての行動だった・・・冒険者風情に彼らの情報を話そうものなら

その報復は必死・・・それ故に、みな貝のように口をつぐんでそれについて何一つ喋ろうとは

しなかったのである・・・。しかし、そうは言っていても国家からの半命令的な依頼を

破棄するわけにはいかない。レイスとヴァニラもいろいろ考えを巡らすが残る方法は、

正面突破くらい・・・それしか、レイスたちには方法が思いついていなかったのだ。


「他の入り口あるけど、教えてあげよっか?」


レイスとヴァニラが困り果てている中、聞き覚えのある声が聞こえる・・・。


「ああ、頼む・・・ってお前、村に帰ったんじゃなかったのか!?」


思わず乗ってしまったレイスだが、 そこにいたのはここにいるはずのない

さっき助けた少女・・・”なんでこの娘がいるんだ”という風にレイスは少女を見る。

少女は少女でレイスの言葉が気に障ったのか、少し怒ったような表情を見せる。


「お前・・・はないでしょ?私には、リサっていう名前があるんだから!」


怒りながらも、少女はレイスたちにそう言いつける。

というか、お前の名など聞いていない。なんで、ここにいるのか聞きたいんだ・・・。

レイスはそう思いつつ、少し頭痛を覚えていた。


「で、その出入り口聞きたい?」


そんな事を知ってか知らずか、リサと名乗る少女はレイスたちに顔を近づけて話しかける。

無邪気な笑顔だが、裏がありそうでなんだか怖い・・・。


「あなたねぇ、自分が危険な目にあったってのによくついてきたわね。」


ヴァニラも呆れ顔で突っ込むがリサはこう言い放つ。


「へへ、野次馬根性爆裂ってやつよ。」


そんな爆発しなくてもいいものを爆発させ、ここまで来たリサは、

レイスたちが苦い顔をしているのも気にせず、相変わらず無邪気な笑顔をレイスたちに向ける。

しかし・・・、今は少しでも情報がほしい。この娘にかけても悪くないかもしれない・・・。

そう思いレイスはリサに聞いてみることにした。溺れる者は藁をも掴むという感じで・・・。


「・・・・・で、その別の入り口ってのは?」

「あの廃屋は、かなり昔からある貴族の家らしいんだけど、
 そういうとこって、たいがい、緊急用の非常口があるでしょ?
 そこからなら、誰にも見つからずに入れるよ!」

「その非常口ってどこにあるの?」


レイスがリサに抜け穴の事を聞くと、うれしそうな顔でレイスたちに情報を話しだした。

ヴァニラもレイスと同じ意見なのか、しょうがないといった感じでリサの話に乗っていた。

2人とも自分の話に乗ったと感じたリサは、ついて来いとばかりに走り出す

もう行けるところまで行ってやろう・・・。レイスたちはリサを追いかけた。


      で、リサについてきてやってきたのは、少し狭目の洞窟。

小柄なリサやヴァニラならすんなり入れそうだが・・・。

身長の高いレイスは下手の動くと頭を打ちそうな感じの、本当に狭い洞窟。

リサがどうして、この裏口を知っているのか聞いてみると、

散歩途中で、ここを偶然見つけ、奴らの情報を探ろうとしていたのだが、

連中に見つかり、追われていたのらしい。で、その後レイスに助けられたというわけらしい。


「で、リサちゃんは、どうするの?」


ヴァニラが不安げに、リサの対処を聞く。


「案内もしてもらったし、内部の事情も詳しそうだから、
 このまま連れて行く、これから帰す時間も惜しいし、1人で帰すわけにもいかないだろ?」


レイスがそういうと、ヴァニラも仕方ないと言う顔で納得したようだ。

首を縦に振り返事を返した。

この地下通路のことは、奴らも知らなかったのか警備しているらしい奴らは全然いなかった。

これなら、少女1人でも入れるはずである・・・。


     そうこうしているうちに広い空間に出た、いかにも何か出そうな感じの空間に・・・。


「ねぇ、レイ、何か感じない?」


ヴァニラが不安げにレイスに話かける。

レイスもそれを感じたらしく、ヴァニラの意見に同調した。


「ああ、用心に越したことはないな。」


レイスは幅広剣、ヴァニラは短弓を構え戦闘態勢に入る。

しばらく進むと、大きな岩の塊がレイスたちの視界に入る。

しかし、何か様子がおかしい・・・というのも、少し動いている感じがする・・・。


「おい、リサ!本当に、この通路には何もなかったんだな!?」


ここの様子が少しおかしいと感じたレイスは、リサを問いただした。


「うん、だから簡単に入れたんだから!」


それを表情を変えずに、リサは答える。


「じゃ、目の前のアレはなんだ?」


しかし、レイスが指差す方向には、簡単に入れそうにないような物体が置かれていた・・・。

目の前の巨石が、音を立てて動き姿を変えていく・・・。


「へ?あんなん、来る時にはいなかったよ?」


リサは、本当に初めて見るようで驚きの表情を見せる。

しかし、明らかに目の前の岩は地響きを立てながら動き人の形へと姿を変えた。


「何で、こんな所にストーン・ゴーレムがいるのよ!?」


驚きの声と共に、ヴァニラが正体不明のそれの名を叫んだ。

ゴーレム・・・・高等な魔導師により作られた魔物の一種。

あの盗賊団の中には結構な実力者もいるようだ・・・。


「大方、リサが逃げた時にここを見つけて、侵入者用に仕掛けたんだろうよ!
 こいつは、明らかに人造の魔物だ!」


レイスが、嫌味気にヴァニラの意見に答える。

リサの言う事が本当ならば、そうとしか考えられないからだ。

ゴーレムはレイスたちに気づくと、その豪腕をがむしゃらに振るいだす。

その腕は、地響きと共に、この脆く、狭い洞窟を破壊しだした。


「くそ!でたらめにぶっとい腕振り回しやがって!!洞窟が崩れるじゃないか!」


レイスがゴーレムに対し、悪態をつくが・・・所詮は意思を持たない人工生命・・・、

レイスのそれに聞く耳を持たずゴーレムが腕を振り回し、洞窟内を暴れまわる

幸い上半身だけなので、移動は出来ないものの、

その長い豪腕による一撃と洞窟の振動や落石を考えると容易に近づけない、しかし・・・。


「私に任せて!」


ヴァニラがそういうと、手で印を作り、詠唱する・・・。

周りに光が立ちこめ、風がまとわりつくかのように彼女の周りを流れた。


「我をつつみし、風霊よ・・・・・。

 我が名、ヴァニラ・クレセートの名を持って、汝らに命ずる・・・・。

 汝は全てを切り裂く最強の剣・・・・・。

 汝は魔を裁きし精霊の剣・・・・・。

 その剣を持って、我が敵を討たん!!

 クロム・トーネード!!


ヴァニラの周りに流れていた風が真空の刃と化し、ゴーレムを切り刻む!

魔導術と言われる力を、ヴァニラが放ったのだ!

精霊の力を借りて、己の魔力と引き換えに、超常現象を起こす秘術・・・。

といっても、マテリアル・チップという媒体があればほとんどの人間が使える代物だが・・・。

ちなみに、このヴァニラの魔導術は、風の属性の中級魔導術

明らかに土の恵みを受けているこいつには、この風はきついだろう。

しかし、まだ生命力が残ってたらしく、果敢に襲い掛かってくる。


「あいつは腕を振り回すしか脳が無いんかい!!」


ゴーレムの攻撃を避けながらレイスは、再びあの岩くれに悪態をつく。


「んなもん聞かれても知らないわよ!!」


それにすかさず突っ込むリサ、必死な表情でゴーレムの攻撃を避けている。

民間人の割には意外と身軽のようだ。


「即席ゴーレムじゃこんなもんじゃない?」


そして、最後にヴァニラの結論めいた突っ込み・・・。これじゃ、まるで漫才だ。

と、のんきに言ってられる状況でもないのだが・・・。

ゴーレムの腕は早いものの大振りなため、リサでも避けられるが、

その腕による落石や地響きのほうはどうにもならない、その為に容易に近づけない。


「きゃ!!」


そうこう言っている内に、ヴァニラに落石が直撃した!

衝撃で体が2・3度バウンドして、地面に叩きつけられる。


「ヴァニラ!」


レイスが己のパートナーの名を叫んだ。

しかし、それでゴーレムの攻撃は止まるわけではなく、

その落石や衝撃から避けるしか出来なかった・・・。


「だ、大丈夫!ただ、かすっただけ・・・。」


ヴァニラは強気にそう言うが、ダメージが大きいのは見るからに明らかだった。

しかし、かろうじて攻撃を回避できているようだ・・・。


「ち!とっととあの世に行きやがれ!!この人工生命め!!烈空波!!!」


ヴァニラの様子を見て、危機感を感じたレイスがゴーレムに攻撃を仕掛けた。

奴の動きの一瞬の隙をつき、剣士独特の動きで衝撃波を放つ。

衝撃波が、ゴーレムに直撃しその体が激しく揺れ、その一撃が効いている事を物語る。

そして、これが決定打になったのかストーン・ゴーレムは元の土塊に戻った。


「ふぅ、何とか倒せたわね! って、痛!!!」


ヴァニラの身体に激痛が走る。

あれだけの衝撃を受けたのだ、無傷なわけが無い・・・・。


「大丈夫か?
 精霊よ、わが声を聞け・・・。
 汝に宿りし生命を持って、わが同胞に大いなる恵みを与えん・・・、ヒーリング!


レイスが、回復の魔導術をヴァニラに唱える。

淡い緑色の光がヴァニラの傷を癒す、幸いかすり傷だったらしく傷はすぐに塞がった。


「ありがと、レイ。」


ヴァニラの表情から苦痛の色が消えた。レイスにも、安堵の表情が戻る。


「・・・・・・・・。」

「どうしたの、リサちゃん?」


気がつくとリサが何か言いたそうにこちらを見ていた・・・。

不思議そうにリサを見て、疑問をぶつけるヴァニラ。

そして、レイスは言いたいことが分かっているかのごとく、リサを見ていた。

そして・・・想像したとおりの事をリサは言い放つ。


「ねぇ・・・、2人って、付き合ってんの?」


その意見にヴァニラが顔色一つ変えずに答える。


「うーん、別にそういう関係じゃないんだけどね。」


納得が出来ないといった感じのリサ・・・諦めきれないと言う顔でまたしつこく聞いてくる。


リサ「でも、仲が良さそうだよ?」


そんなリサに横からレイスが呆れ顔で口を挟む。


「・・・まあ、パートナーだからな。
 連携が取れなきゃ困るし、コミュニケーションを常にとってるからそう見えるだけで、
 お前が考えているような関係じゃないぞ。」


レイスの言葉に、ヴァニラも同意する。


「そうそう、私たちは常に連携できてた方が仕事がしやすいからよ。」

「そういうもんなんだ・・・。ふーん・・・。」


一様は納得したかのように見えたが、リサはまだ気にしているようで・・・。

すこし、納得が言ってない顔を見せた。まぁ・・・そう考えるのも無理は無い・・。

男と女というコンビだとそういう風に考える人間は決して少なくはない。

レイスとヴァニラがコンビを組んで、いくらその事を言われたか・・・、

数え切れないほど、そういう疑問をぶつけられ、

レイスもヴァニラもそれに慣れきっていたのだ・・・。

そうこうしているうちに、しばらく歩くと洞窟を抜け石畳の部屋に出た。

部屋が暗くホコリが舞っている、どうやらここは地下室らしい。


「ここが、奴らのアジトか。」


レイスが小声でそうつぶやく・・・。

さっきの地下室のような所から出てきたレイスたちは、今1階にいた。

期待していたリサの情報も当てにはならず、結局、自力でこの広い館を調べる事になる。

さすがに元貴族の屋敷とあって、古いながらも上品かつ豪華な屋敷で、

得体の知れない悪党どもにはもったいないくらいな屋敷だった。

だが、盗品と思われる豪華な美術品や珍しい品々、高級な酒などが所々に隠すように置いてある。

この辺は悪党らしいといえば悪党らしい。

当然、警備の奴らもそこらかしこにいたにはいたが、こういうことは慣れっこなのか、

やり過ごしたり、気絶させたりと対処できた、だが・・・。

レイスは、少し怪訝な表情を見せる。


「ここの連中、なんか妙だ。」

「やっぱり・・・、あなたもそう思う?」


ヴァニラもレイスと同じ違和感を感じたのか、やはり、怪訝な表情を見せる。


「?、どうしたの?」


リサ1は人だけ、分かっていないらしい。

レイスたちがこの中で相手にしてきた集団は外のチンピラどもとは比べ物にならないくらい

俊敏な動きをみせる・・・それは訓練をつんだ兵士たちとまるで変わらない統率された動き・・・。

レイスもヴァニラもその事で疑問を思っていた。

しかし、そんな疑問もここでは答えてくれる人間がいるわけではない・・・。

レイスたちは組織の1人を捕まえ、こいつらの長をはかせて、その場所まで案内してもらった。

こういう組織にはたいがい長がいるものだし、それを潰せば、ただの烏合の衆となると考えたからだ。


「ここに長がいるわけね。 行くわよ!」


ヴァニラがそういって、静かに扉を開ける。木で出来たそれは特有の音を立て開きだす。

その先に、長とやらはいた。ゆっくりと椅子に腰掛けてこちらを見ている。


「ふん、来おったか・・・。」


長は、レイスたちが来るのを分かっていたらしく、動揺の色がない。

落ち着きをはらって、静かに本を読んでいるようだ。

そして、本をたたみこちらを向き立ち上がる。


「このお爺さんがあいつらの長?」


ヴァニラは意外そうに、口を開いた。


「ジジィだからといって、なめない方がいい。なんか、妙だ。」


しかし、レイスは警戒を緩めず、ヴァニラに答える。

護衛を呼ぶという風にも見えず、長はゆっくりと立ち上がった。

この部屋に入ってから、妙な違和感をレイスは感じていた。

そして、次の瞬間・・・・・、


「我が名はイグレスト・ガレスト!!我が力は神の力!その力、とくと見ろ!!」


長から発せられた叫びでレイスたちの身体は震え上がり、後退する・・・。

まるで、衝撃波でも叩きつけられたかのような感じで・・・。


「な!?」


予想外の出来事にレイスは困惑の色と驚きの色を見せる。


「まさか、ゴロツキの長がここまでやるとはね。リサちゃん、危険だから・・・って、あら?」


ヴァニラがリサの事を気にかけるが、傍らにいるはずのリサがいない・・・。


「こぉんのぉ!! 放しなさいよ、エロジジィ!!」


リサの声が聞こえたと思うと、レイスとヴァニラの目の前に

イグレストの傍らで精一杯抵抗しようとしているリサの姿があった。

いつの間にか、奴に捕まっていたのだ。


「い、いつの間に!?転移術にしても、遠隔操作の術にしても早すぎるわ!!」


ヴァニラが驚きの声を上げる・・・レイスも動揺の色を隠しきれていないようだ・・・。


「・・・・・・。」


しかし・・・レイスにはイグレストの能力の正体が分かりかけていた。


「どうした、来ないのか?わしの力にめんくらっとるようだな。」


さっきの体を押し返すような声、そして、今のリサを速攻で移動させた謎の力、

レイスの頭の中に1つの答えが導き出された。


「お前は、まさか・・・神化の力を・・・。」

「ほぉ、知っているのか、この力を?」


レイスが奴の力の正体を話すと、少し驚いた様子でイグレストはそれに答えた。


「神化の力?なんなの、それ?」

「説明は後だ!こいつは、思ったより手強い。」

「それに、リサちゃんが人質に取れれてたら、手の出しようがないか。」


ヴァニラがレイスに問いかける・・・しかし、今は説明して時間が無い・・・。

レイスがそういうとヴァニラもそれを分かってか、戦闘を続行した。


「ふん、来なければこちらからいくぞ!くらえ、・・・クロム・トーネード!!」


リサを人質に取られ、レイスたちが手を出せないのをいいことに、イグレストが先手を切る。

少し間をおき、イグレストから放たれた真空の刃が、小さな竜巻となりレイスたちを切り刻む!


「く!!
 精霊よ、我が声に応えよ!!
 我が周りに集いて、邪なる魔の力をその大いなる力をもってかき消さん!!
 スペル・ディフレクション!」


ヴァニラの唱えた魔防壁の魔導術によって、奴の風からの衝撃を和らげたが・・・、

通常、魔導術に必須とされる詠唱を唱えず、イグレストが魔導術を放った事に

レイスは少し疑問を持った・・・そして、それと同時にレイスにある答えが浮かぶ・・・。


「分かった!あいつの力は、声の力。音速を超える速度で詠唱していたんだ!」

「じゃあ、さっきのリサちゃんのはレスキュレイト?(他人をこちらに呼び寄せる魔導術)
 で、私たちを動かしたのは、その特性を使って衝撃波を放ったのね?」


レイスが、イグレストの能力の正体について、ヴァニラに叫んだ。

声を早める力・・・それと、魔導術を組み合わせると、今までの事に合点がいく・・・。

レイスは、正体がそれと分かると早速、その対処法を仕掛ける。


「精霊の力使いて魔なる言霊放ちし愚かなる咎人に静寂なる裁きを与えん!
 サイレ・・・・・。」


その対処法とは、魔導術の封印・・・封印系の魔導術を放てば、魔導師である

イグレストは、ただの老人に成り下がる・・・。

レイスはそれを分かって、封印の魔導術の詠唱をするが・・・。

「遅いわ!!サイレンス!!!」

「ぐっ!!」

「レイ!!・・・・・・ああぁ!!」


レイスが魔導術を封じる前に、イグレストが先手を打ちレイスとヴァニラの魔導術を封じる。

ヴァニラの作った魔防壁が効いているのがせめてもの救いだが・・・これで対処法を失った。


「さて・・・、どうするかね?
 魔導術がない力のみ冒険者など、我が魔力の前ではただのデグの棒だ!
 くらえ!・・・ヴァルス・ブレード!!」


巨大な雷の剣がレイスたちに襲い掛かる、奴の魔導術をどうにかしないと近寄れも出来ない。


「うぐぁ!!」

「あああああぁぁぁぁぁ・・・・・。」


雷系の魔導術を受け、レイスとヴァニラが絶叫する。

魔導術を封じるか、リサを助け出さないと、レイスたちに勝機はない・・・。

下手に攻撃してリサに当たってもどうにもならないからだ。


「フフ、絶望を抱きながら死ねい!!王となりし者に逆らう、愚か者どもよ!」


そんな状況をイグレストが余裕の表情を浮かべている。

しかし・・・・・・奴は、自分の失態に気づいていないようだ・・・。


「・・・愚かなのはお前だ!お前の使う魔導術は、いくら高速で詠唱しようとも、
 やはり、両腕を使わなければ放てないようだな!」


レイスが、イグレストに対しこういい言い放つ。

この世界で使う魔導術は、声による詠唱と、手や体の動きで、周りの精霊に呼びかけ、

その力を発揮する。いくら高速で詠唱できようとも、

結局、体の動きまでは高速には出来ない、つまり・・・。


「はぁ、やっと、あのエロジジィから開放されたよ。」


レイスたちのそばに、イグレストから開放された、リサの姿があった。

あんだけ腕をぐるぐる回してたら、逃げ出すのに苦もないだろう・・・。


「な!!なにぃ!!!」

「まぬけねぇ、自ら人質を放すなんて。」


イグレストが動揺を見せた・・・、間抜けだ・・・・間抜けすぎる・・・・。

さすがのヴァニラもその間抜けに嫌味の一つを言っていた。


「ええぃ、また呼び戻せばいいこと!!」

「そうはさせないわよ!!」


再び、詠唱に入るイグレストだが、それより早くヴァニラが弓を射る。

放ったれた矢が、鋭くイグレストの腕につき刺さり、イグレストは絶叫した。


「まだくたばるには早いぜ!!くらいな!!烈空波!!!」

「ぐお!!!」


レイスの巻き起こした衝撃波が、イグレストの体を部屋の奥まで吹っ飛ばし、壁に叩き付けた。

これで、しばらくは動けまい・・・。


「ぐ、ぐぐ・・・。」


大打撃を受けたイグレストだが、ヨロヨロになりつつ何かを押した。

・・・数秒後、けたたましい音があたりを包み込む、奴が警報を鳴らしたのだ!


「いくら・・・、お前たちが強かろうと・・・我が軍勢を全て相手にするわけにはいくまい・・・。
 おとなしく・・・、降伏・・・するのだな・・・。」


逝き絶え絶えで、イグレストはレイスたちに不敵な笑みを作る。

まるで、最後に勝つのは自分だといいたそうな表情で・・・。


「万事休すか・・・。」


確かに、レイスたちがいくら熟練した冒険者でも、数で押されたらひとたまりもない。

レイスの発言に、リサも泣きそうな顔で動揺していた・・・。

しかし・・・・。


「どうした・・・?何故・・・誰も来ないのだ?」


数分たっても、イグレストの部下は入ってこない・・・。

イグレストも動揺の色を見せる。

       10分後。

やっと、イグレストの部屋に、無法者が入ってくる。

ただし、その身体は既にボロボロで・・・。

逆にイグレストを頼るような表情でこちらを見ていた。


「イグレスト様〜、お助けてください〜。」

「な、なにぃ!」


予想外の自体がおこり、イグレスト自体も動転していた。

ヴァニラが嫌味気に口を開く。


「あらあら、残念だったわね。期待した援軍が、あ・ん・な・ん・で♪」


ヴァニラがやけに楽しそうだ・・・・レイスが少し呆れ顔でヴァニラを見た。

リサはリサで今までのヴァニラとのギャップに少し、驚いているようだった。


「こ、これは一体・・・?」


困惑するイグレストにレイスは、種を明かす。


「俺たちが、こんな手も考えずに来ると思うか?
 もう、ここらはウォスカ軍に制圧さえているはずだぜ。」


そう、ここに来る前にレイスたちはウォスカの軍関係知り合いに掛け合っていたのだ。

レイスたちがこいつを倒している間に、ウォスカ兵が中を制圧、一網打尽にしてもらうように・・・。


「じゃあ、さっきの万事休すって言うのは?」


リサがレイスに対し、さっきの発言について聞く・・・。


「冗談だ、笑え。」


リサの鉄拳がレイスに飛んでくる・・・よっぽど、不安だったようだ・・・。


「笑えるかい!!!心臓が潰れるかと思ったよ!!」

「だからって、殴るこた無いだろ!?
 お前のせいで手こずったんだし、こんぐらいで殴るな!」

「まぁまぁ、2人とも落ち着いて・・・。」


リサが涙目でレイスに掴みかかる・・・レイスはレイスでリサに文句をつける。

ヴァニラがそんな2人を笑いながらなだめた。

そんな、漫才のようなやり取りを切り上げ、レイスがイグレストの方に目を向けるが・・・・。


「白目向いて泡吹いてるよ、この人、意外と小心者だね〜。」


顔から出る全ての液体をたらしつつ、気を失っていた・・・・やはり、間抜けだ・・・。

さっきの事の仕返しかリサがイグレストを弄くりながら笑っていた。

レイスや、ヴァニラも流石に顔が緩む・・・。


「ま、これで一見落着っと、後は兵隊さんが何とかするでしょ。さあ、行きましょう!」


ヴァニラが安心したように息をつく、これで・・・終わりだ。レイスも安堵の表情を見せた。

こうして、レイスたちの依頼は無事に成功した。

その後、城で尋問されイグレストはその全ての全容を話した。

何故、盗賊団を築いたのか、何故、その力を持ったのかを・・・。

イグレストは、もともと教会の聖職者だったのだが、と、ある男によってこの力を授かったらしい。

誰かは分からないし、顔も仮面をしていたため、はっきり見てないが、

かろうじて男とだけ判断できたとか。で、この力で、ウォスカを乗っ取る計画を練っていたらしく、

今の政府に反感を持つ者を、片っ端から集めて、あの組織を作り上げたというわけ。

当然、イグレストとその一味は連行され裁判にかけられている。

カルフォニアを度々襲っていた奴らは、村人の証言にもよるが、終身刑は固いとのこと。

しばらくは、カルフォニアにも元の平穏な空気が流れるだろう。

ちなみに、リサはというと、無事に親の元へ帰した。

当然、かなり心配していたらしく、父親の方は顔をくしゃくしゃにしてリサに泣きついていた。

母親もレイスたちに感謝しつつも、少し泣いていた。

レイスたちはレイスたちで、ウォスカの冒険者ギルドで報酬をもらい宿屋で疲れを癒していた。

そして、ヴァニラがレイスに対し、疑問をぶつけていた。

レイスが発した謎の言葉・・・神化プログラムについてを・・・。


「これで終わった・・・か。
 さて、レイ!聞かせてもらおうじゃない。あなたの言った神化の力の事を・・・、
 そして、何であなたがそれを知っているかを・・・。」

「・・・ああ。」


その頃、ウォスカ城、第3独房。


「・・・・・・。」


牢獄の中・・・1人イグレストがいる中、何処からか、男が入ってくる・・・。


「失敗したようだな、イグレスト。」

「!!!、お前は!」


仮面の男に見覚えがあるのか、イグレストは驚いた表情で男を見た・・・。


「お前には、神の力は荷が重すぎたか・・・、せっかく我が軍勢も加担したというのに・・・。
 これでは、全てが水の泡だ。」

「う、五月蝿い!少し、失敗しただけだ!今度こそ、今度こそは、必ず!」


イグレストは仮面の男に対し、強気に言うが、

仮面の男はナイフを取り出し、イグレストに迫る・・・。


「悪いが・・・、もう、今度という言葉は無いのだよ・・・。」

「な、何!?」

「残念だよイグレスト、そして・・・・さらばだ!」

「や、やめ・・・・・。」


イグレストの絶叫が牢屋内にこだまする・・・。

力を得て、革命を夢見た男の最後の叫びは何処までも響いていた・・・。

     その次の日、イグレストの首無し死体が、看守によって発見された・・・。

イグレストの頭は、何処にも見つからず、また、不可解な点が多数ある為、

結局この殺人事件は謎に包まれたという・・・・

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