Destiny 〜第2話〜     私は・・・フレイア(前編)


まったくもぅ、やってられないわよ!」


ヴァニラが、イラつかせながらレイスに愚痴を言う。当然、それにも理由があるが・・・。

あの依頼から2日後、レイスたちは新たな依頼を受けウォスカ城のはずれの旧兵士寮にいた。

依頼主の名は、グレイ・ゼフィロス・・・ウォスカ軍第7部隊の少佐にして、

レイスの古い友人である。イグレスト事件にてウォスカ兵を派遣したのも彼だ。

・・・まぁ、そのせいでレイスたちは今この場にいるわけなのだが・・・。


「しょうがないだろ?相手は、天下の少佐様だぜ。
 そうそう、俺らのような一般人と顔をあわせるようなことも無いだろうしな。」


皮肉めいた口調でレイスがそう言うと、ヴァニラはわざとらしくため息をついた。

散らかった部屋を嫌う清潔好きなヴァニラにとっては無理のない話だが・・・。

というのも、依頼を受け依頼内容は城で話すと言われて城に来たのはいいが、

依頼主自身が多忙のため、ここで待っていてくれと言われ3時間半、

レイスたちはずっとこのホコリの舞う部屋で依頼主を待っていた。

ヴァニラはそれで愚痴を言っていたのだ・・・。


「ま、そりゃそうだけどね。軍関係の人たちが忙しいのはいつもの事だし・・・。」


ヴァニラも頭の中では一応は納得しているものの・・・、やはり苛立ちを隠せないようだ。

しかし、現在は各国大規模な戦争中じゃないにしろ(それでも、内戦、紛争等はあるようで・・・。)

魔物の襲撃に備え各国の軍は常に緊張状態で、なかなか手が開かないのが現状だ。

戦える人間が1握りしかいない、今の世界じゃ仕方ないと言えば仕方ないのだが・・・、

”自分で依頼した依頼ぐらいもう少し、迅速に対応してほしい・・・。”

レイスもヴァニラもまだ姿を見せぬ依頼人にそう感じていた。


「・・・そう言えば、神化の力のことも結局聞けなかったわね。
 あの時、リサちゃんに邪魔されなければ、聞けたでしょうけど・・・。」


少しは落ち着いたのか、ヴァニラが思い出したかのようにポツリと呟く。


「そういやそうだったな・・・ま、時が来れば話すさ。」

「今、ここで話せないの?」

「今は仕事に集中しとけ、いつ依頼主が来るか分からんからな・・。」

「そうね・・・・。」


神化プログラムのことが気になるヴァニラだが、レイスはそれをまだ言ってはいなかった。

というよりは、言えなかったと言うほうが正しいが・・・。

そう、それは2日前、イグレストの1件が終わり、宿で疲れを癒しているときに、

レイスは、ヴァニラに神化プログラムについて、説明するつもりでいた。

新たな神化の力を持つものが現われ、それと対峙したヴァニラには、

もう無関係な話では無いと考えたからだ。

しかし・・・・。


      2日前、ウォスカのとある宿屋にて・・・・・・。


「で、神化の力ってなんなの?」

「それは・・・・・、」

「それ、私も聞きたいな!」

「!?」


幼さを残した少し独特な声が聞こえると思うと、

そこにいるはずの無い人間がレイスたちの部屋の中にいた。

リサ・クラナギ・・・カルフォニアにすむ普通の少女のはずだが・・・、

レイスたちは驚きを隠せず数秒間、微動だにせず止まっていた。

やがて時が動き出すとともに、ヴァニラが口を開く。


「リ、リサちゃん!?何でこんなところにいるの!?」


まだ、驚きを残した感じでヴァニラはリサに問い詰める。

しかし、そんな事は気にせず、相変わらず笑顔で話しかけるリサ・・・。


「そりゃあ、ドアから・・・・しっかし、無用心だね〜。鍵もかけてないなんて・・・。」

「そうじゃなくて、何でカルフォニアにいるはずのお前が、ウォスカにいるんだと聞いているんだ!!」


今度はレイスが少し怒った様子でリサに問いただす。

しかし・・・リサから出た言葉はレイスたちの想像を超えたものだった。


「そりゃ、私は世界を旅するジャーナリストだよ?
 あの時は、情報収集のために、たまたま、実家に帰っていただけだもん!」

「じゃ、じゃーなりすとぉー!?」


その予想を超えた回答に対し明らかな驚きを見せるレイス

ヴァニラも驚きのあまり呆気にとられ、声も出ない様子だった。


「うん、知らなかった?”蛇女リサ”の名前は結構有名だよ?」

「へ、蛇女・・・??」

「そう、色んな特ダネに食いついて離さないから、そんな異名がついたの。
 でも、失礼しちゃうよね〜こんな、可憐な乙女蛇女だなんて。」


相変わらず、自分のペースで話し続けるリサ、彼女曰くそこそこ有名なジャーナリストなのらしいが、

それを知らないレイスたちは、その外見から想像もつかない彼女の正体に驚くばかり・・・、

それと同時にレイスの顔に焦りの色が見えた。

神化プログラム・・・この言葉はまだ人の触れさせてはならない禁断の言葉・・・。

これを世間に公表するという事は、世界全体を混乱に陥れる事をレイスは分かっていたからだ。

リサの幼い外見に油断をしていたレイスの頭に浮かぶ言葉・・・、

それは、”毒蛇”という後悔の念とも嫌味ともとれる言葉だった・・・。


「ところで、リサちゃんって、何歳?もう、働ける歳なの?」

「ヴァニラって、同じ女の子なのに分かってないなぁ〜。女の子の歳を聞いちゃ、駄目駄目だよ〜。
 ま、でも、一応、18歳以上はいってるから働けるよ♪」

「は、はぁ・・・。」

「で、神化の力って何?
 私も、イグレスト事件の関係者だし、無関係とは言わせないよ!」


レイスに表情から、その言葉の重要性を感じ取ったヴァニラが話を逸らそうとするが、

リサにはそれも通じず、相変わらずレイスに神化プログラムの実態を問い詰める。

世界を旅するジャーナリストとしては、それは優秀な姿なのだろうが、

レイスには、苛立たせる原因にしかならなかった・・・。


「・・・やめた!」

「ふぇ?」

「ったく、お前が来たせいで言う気が失せた。とっとと、出てけ!」

「えーー!!そりゃ、無いよ!私だって、1個人として気になるよ!」

「その前に、1ジャーナリストとして気になるんだろ?
 こんな事、世に広めるわけにはいかないんだ!!」

「でも・・・。」

「でもも、くそも無い!!早く出て行きな!!」

「・・・・・・。」

「・・・出て行けといっているんだ!」

「!・・・わ、分かったわよ・・・。
 でも、”蛇女”の異名は伊達じゃないんだから!絶対に聞き出してやる!!」


レイスが、殺気をこめて言うと、リサはついにあきらめたようだ・・、

そう言うと、しぶしぶ部屋から出て行った・・・。ヴァニラが不安そうにレイスの顔を見ている。


「レイ・・・。」

「もう言う気が失せたと言ったはずだ・・・。まぁ、そのうち話すさ・・・そのうちな。」

「・・・・・・。」


その後に残るのは、沈黙・・・誰しも話しづらい空気がその場に残る・・・。

そして、一様は半強制的ながらもリサを追い返したレイスだが、

蛇女の目は、至る所にあるようで、武器屋・道具屋・ギルドに酒場、

挙句の果てには、レイスの個室にまで、殺気に近い視線を持ったリサの目が光っていた。

しかし・・・そんな事をしたところでレイスが話すわけではなく、無視を決め付けて

気にする様子もなかったのだが、流石に24時間全てにそれがあるとなると

レイスも気になるらしく、寝るに寝れずに最近は体調を崩していた・・・。


そして、時は現代に戻り・・・ウォスカ城・旧兵士寮          


「ん・・・?」

「どうしたの?また、リサちゃんの視線でも感じた?」

「いや、依頼主さんが来たみたいだぜ・・。」


やっとの事で今回の仕事の依頼主が来たようだ。

入ってきたのは、左腕が少し特殊な形状のプレート・アーマーに身を包んだ

少し幼さを感じさせる青年・・・見た目は、まだ新米兵士っぽさを感じさせるが、

彼こそ、数々の武勇を打ち立て、”若獅子”の異名を持つ、ウォスカ第7軍少佐

グレイ・ゼフィロス


「すまないな。待たせてしまって。」


2人が明らかに不機嫌なのを感じたグレイはバツが悪そうにレイスたちに軽く謝罪する。


「グレイ、客人を3時間待たすんなら、もうちょっと気のきいた場所にしな!
 こうホコリっぽくては、喉がやられちまう。」

「はは、すまないな。どうしても、他人には聞かれたくなかったんでね。」

「で、依頼ってなんだ?まぁた、チンケな魔物退治じゃあるまいな?」

「まぁ、これを見てくれ・・・。」


こんな場所に呼びつけておきながら、些細な仕事ではない・・・そんな事は分かりつつも、

レイスが冗談交じりでグレイにケチをつける。

いつもの事だと思いつつ、グレイが取り出したのは一枚の紙切れ・・・。


「なんですか?それは・・・手紙みたいですけど・・・。」


ヴァニラが不思議そうにその紙を見る。

紙にはこう書いてあった・・・。


我は、紅蓮に染まりし神の刃

我が同胞を闇に葬りし咎人よ

我の元へと来たれよ

我が誘い拒みし、そのときは

紅蓮の刃にて無垢なる民草を焼き払わん

我が待ちしその地は第1の印によりて守られし場所

第7の印にて閉ざされし場所

そして・・・


「なんだ、これ?」

「脅迫状・・・?でも、我が同胞って何かしら?」


レイスもヴァニラもその意味不明な内容に首をかしげる。


「何かの悪戯じゃないのか?」

「悪戯だったら、いちいちイグレストの身体に刻み込まんと思うがね・・・。

「!!」

「昨夜、こいつの首なし死体が発見されてな・・・、
 これは、その背中に書かれていた文を紙に書き写したものだ」

「あのおじいさん、亡くなったんだ・・・。」

「盗賊団の首領を務めていてんだ・・・
 どの道、死刑は免れないし、結局同じ事だがな・・・。」

「だからと言って・・・。」

「そうだ、これが合法的な殺人なわけがないし、
 この手紙によると、いずれ、ウォスカ大陸の民にも危険が及ぶ・・・。
 だからこそ、お前を呼んだんだ。レイ!」


確かに敵だった・・・しかし、そのあまりに惨い死に様にヴァニラの表情は曇る。

が、レイスとグレイはそれに関して割り切っていたようだ。

結局は死ぬ事には変わりない・・・ヴァニラはそんな2人の反応を非難するが、

それよりも、むしろ別の問題を2人は感じていた。


「でも、そんなの軍の仕事じゃないのですか?何で冒険者風情の私たちを呼んだのです?」


悪戯にしては、度の過ぎた行動、意味不明の内容・・・、確かに冒険者が介入できる事件ではない。

ヴァニラは、何故、自分たちが呼ばれたのか分からなかった。

しかし・・・レイスはその意味を理解していた。

これは、軍でも、ましてや冒険者でも関われない・・・。

自分たちしか、解決できない事件だという事を・・・。


「神化プログラム関連・・・だからだな?」

「ああ・・・。神の名を語る以上、その可能性は高い。
 この仕事は軍よりこいつの方が慣れているからな。」

「グレイさんも神化プログラムのことを知っているんですか!?」

「そうだが・・・、君は、レイから何も聞いていないのかい?」


神化プログラムをヴァニラが知らないことを驚くグレイ、

レイスのパートナーなのだから、当然知っていると感じたからだ。


「巻き込まれた以上、話すべきだとは思ったんだが、思わぬ邪魔が入ってな・・・。」

「リサ・・・リサ・クラナギのことだな。」

「ご名答、あんなにしつこいとは思わなかったよ・・・。」


レイスがため息交じりでグレイに話す。グレイも苦笑しながら、レイスの苦労を察しようだ。


「あの娘は、蛇のように食いついたら離れないので有名だからな・・・。
 それに彼女は、生粋のジャーナリストだ・・・すぐに事実を公表するだろうな。
 もし、この真実が広まれば神や魔物の真実が一気に覆されることになる。
 それだけは絶対避けなければ・・・。」

「?」


何かの視線を感じたグレイが急に話をやめる。

それに気づかないヴァニラは不思議そうに見るが・・・。

レイスが苦い顔をしているのを感じて、察したようだ。

まさか、あの娘の視線がこんな所までも・・・、

レイスのみならず、ヴァニラもリサの行動力には恐れ入った様子だった・・・。


「・・・まぁ、その話は、また、レイに聞くといい。それよりも・・・。」

「今は、この手紙の方が重要だな・・・。」


話を元に戻す3人、上に方で舌打ちのようなものが聞こえた気がするが、

その主も分かりきっている為、気にせず話を進める。


「誰を標的にしているかは知らんが、神化プログラムの力が悪用する輩がいるのなら
 叩いておかねば、大変な事になる・・・。」

「そうだな・・・・ウォスカの人々に被害がでる前に
 こちらから行って叩いておかねばな・・・。」

「しかし、その標的は何処にいるんだ?
 第1の印やら第7の印やら、わけが分からん・・・。」


グレイとレイスが分からなそうに手紙とにらみ合ってる中、

ヴァニラにはその内容の意味の一つが分かりかけていた。


「印・・・・もしかして、属性のことかしら・・・?」

「属性?」


魔導術に関わる7つの属性・・・それの関しての事ではないかと、ヴァイラは仮説を立てた。

それが分からないグレイが不思議そうにヴァニラに問いかける。

魔導術の知識がないグレイのとっては分からないのも無理はないが・・・。


「そう、魔導師の中では、7属性を数字で表す人がいるんです。
 ただ、その表現をする人はかなり少ないと聞きますから、
 知らない人も多いんですけど・・・。」

「第1の印は炎属性、第7の印は闇属性ってとこだな・・・。」

「そう、つまり第1の印に守られしということは、
 炎が渦巻いている場所、あるいはすごく熱い場所です。
 
第7の印に閉ざされし場所は闇に閉ざされた・・・・、
 すなわち暗い場所、恐らく、洞窟か何かだと思います。
 つまり、その人が待っているのは、
 熱い洞窟の中です!

「熱い洞窟の中・・・?」

「ウォスカにそんな場所あったか?」


レイスとグレイが顔をしかめる。

水が豊富なこのウォスカの地では、火山洞等が発見されていないからだ。

が、暫くしてグレイが何か思い出したかのように口を開く。


「・・・忘れられし灼熱の巣窟・・・。」

「・・・?、聞いたことない場所だな・・・。」

「ええ。」


聞いた事もない場所に、首をかしげるレイスとヴァニラ・・・、

グレイが簡潔にレイスたちに説明する。


「それもそうさ、最近発見された新しい洞窟だからな。
 あそこは、溶岩洞だし、この手紙が示す場所にあっている!」

「でも、最後の”そして・・・”ってなんでしょうか?」

「そこの辺りは読み取れなかったんだ・・・・。何が書いてあるのかは分からない・・・・。」

「まぁ、場所が分かればいい!それ以外にはそういった場所は無いんだな?」

「この付近にフレアバードの巣は確認されていないはずだし、
 火山洞や溶岩洞も近辺には無いはずだ!」

「謎は尽きないけど、手がかりがこれくらいしかないんじゃ行くしかないか・・・。」

「そういうことだな、行くぞ!ヴァニラ!」


目的地が決まれば、あとは行動あるのみ、

レイスはヴァニラとともに足早にこのホコリっぽいところを去ろうとしていた。

すると・・・・グレイがレイスを呼び止める。


「待て、俺も行く!」

「いいのか?」

「そのために、今日の仕事を早めに切り上げてきたんだ!行かせないとは、言わせないぞ!」

「へへ、いいぜ!久しぶりにお手並み拝見とするか!」

「フッ、俺の剣技を見て舌巻くなよ!」

「言ってろ!」

「じゃ、改めて、忘れられし灼熱の巣窟へ行くぞ!」


と、言うわけで、改めて3人で、忘れられし灼熱の巣窟へと行く事になる。

で、その道中・・・、レイスは少し疑問をグレイにぶつけた。


「なぁ、グレイ・・・。」

「?」

「これから行く、忘れられし灼熱の巣窟の名の由来ってなんだ?」

「そうよねぇ・・・何で”忘れられし”灼熱の巣窟のなのかしら。」


ヴァニラも、不思議に思ったのかレイスの言葉に同調する。


「さぁな・・・、でも、こんな話があるらしいぜ。
 昔、あそこは、溶岩洞ではなく、金の採掘場だったらしいんだ。
 しかし、金も出なくなり使用されなくなってきた・・・そこで、
 とある、魔導師が新しい魔導術の開発に使っていたらしいんだ・・。
 しかし、実験は失敗、炎霊が荒れ狂う灼熱の洞窟になり
 人の記憶からすっかり忘れ去られたから、忘れられし灼熱の巣窟
 という、名がついたとかなんとか・・・。」

「ふーん・・・。」

「なるほどな・・・でも、なんで今まで見つからなかったんだ?」

「その洞窟があまりに危険になったんで、
 その魔導師が責任を感じて、洞窟に結界をはり、
 魔力で入れなくした上に、視覚的に見えなくしたからだと聞いたことがあるな。
 で、長い間、放置されたせいで魔力が切れその結界も解けたらしい・・・。」

「律儀と言うか・・・隠蔽と言うか・・・。」


レイスが呆れた顔でポツリともらす。ちなみにヴァニラも呆れ顔だ。


「で、そんな話を聞いて、その魔導師の残したものが無いかと
 最近、トレジャーハントに精を出す輩もいるぐらいだからな・・・。
 こっちも大変だよ、盗賊まがいの奴を検挙しなければならないし、
 それで怪我人は続出するし・・・。」

「大変ですね・・・。」

「と、言うわけで、あんなところで三時間半も待たしたことは水に流してくれよ。お二人さん」

「それとこれとは話は別だ!今度、おごってもらうぜ!」

「マジ?」

「マジ」

「ははは・・・・まぁ、いいじゃない、レイ。
 あ、ほら、あそこじゃない?忘れられし灼熱の巣窟って・・。」


一連の話を聞いて、同情するヴァニラ、

しかし、レイスはまだ、さっきのの事を根に持ってるのか、からかい半分でグレイにケチをつける。

そんなやり取りを見つつ、談笑しながら道無き道を歩いていると、洞窟らしきものが見えてきた。

あれこそが目的地、忘れられし灼熱の巣窟・・・見た感じは普通の洞窟だが・・・、

中は、蒸し暑く、ところどころから炎が噴出す、まさに灼熱洞と言った感じ・・・。

軽装なレイスはともかく、ローブ姿のヴァニラや

重々しいプレート・アーマー姿のグレイにとっては地獄でしかない。

魔物もいたるところに現われたが、ヴァニラの魔導術、

レイスやグレイの剣技で特に問題なく奥へと進む。

ちなみに例の魔導師の残したものなんて見当たらず、

その代わり、ところどころに盗掘の跡が残っていた。


「どおりゃぁ!!!」


魔物どもの最後の集団、ヘルハウンドの群れの最後の一体をレイスが一撃を元に切り裂き、

ヘルハウンドは、その体から、赤い血液が飛び散り絶命する・・・。


「ふう、大分奥まで来たわね・・・。」

「ここまで来たが・・・手紙の主どころか、
 盗掘している輩さえいなかったな・。」


ここまで来ても、人っ子1人もおらず、

荒れ狂う魔物どもだけが、レイスたちにその牙を向けていた・・・。

さっきのヘルハウンドの群れ、紅蓮の魔力を持つ蝙蝠、魔炎空牙(マエンクウガ)

フレア・ブレスが小五月蝿い、ファイア・リザード・・・。

どれも、これも、暑苦しい重装備のヴァニラや、グレイには

地獄とも言えるオンパレードだった。

「ったく、これで”他の場所でした〜”なんて言われても笑うに笑えねぇぜ。」

「ほんとねぇ・・・。」

「2人とも、俺をそんな目で見ないでくれ・・・。」


レイスとヴァニラが疑念の目でグレイを見る。

グレイはそんな二人の目にたじたじな様子だった。


「あれ?誰かいる。」


とか、何とか言っていると、ヴァニラが何かを見つけたようだ・・。

見ると、奥に誰か立っている。


「あの・・・。」


ヴァニラが、奥にいた人間らしきものに近寄る。

何かおかしい・・・レイスはそう思いつつ、奥にいた人間らしきものを見ていた。

最初は普通の人間だが、だんだんと膨張し始め風船のように膨らんでいく、


「危ない!!」


危険を感づいたグレイが、とっさにヴァニラを突き飛ばす。

その瞬間・・・。

爆弾が弾けるような音が聞こえた後、そこにいた人間が破裂し肉片が飛び散る!

飛び散った肉片は、赤く染まり、周りの岩石を溶かしつつ消えていった!


「な・・・、なんなの!?」


グレイに抱きかかえられるようにして、間一髪で助かったヴァニラが

正直な感想を述べる。


「この先にとんでもない化け物がいるのは確かだな・・・。」


レイスが、油断なくあたりを警戒する・・・そして・・・。


「フフ・・・。」


聞こえるのは女性の声、レイスたちがその声のするほうに視線を向けると・・・

洞窟の奥の小高い岩の上に、長く、赤い髪をした妖艶な女が立っていた・・・・。


「ひどいわぁ。こんな美女を化け物だなんて。」


完全に冗談交じりの猫なで声で3人を挑発する、赤髪の女・・・、

しかし、その独特の空気に警戒するレイスがそれに向かい叫んだ。


「貴様が”紅蓮に染まりし神の刃”を名乗る者か!?」

「フフ、元気な坊やね。そうよ、私は、フレイア・・・、
 その名を胸に刻んで・・・そして、おやすみ。」


フレイアと名乗る女が、ナイフを構え、グレイに飛び掛った・・・そして・・・。

乾いた音があたりに響く・・・金属が固い地面に当たった音・・・、

それは、グレイの左腕がプレート・アーマーごと綺麗に切断されていた音だった。


「な!?」

「嘘でしょ・・・鋼鉄の甲冑をあんなに簡単に。」


レイスとヴァニラが驚きの声を上げる。

グレイは暫くうずくまって、動けそうになかった。


「ふふ、よく避けたわね・・・でも、次は首が輪切りになるわよ。」


余裕の笑みを浮かべるフレイア・・・ナイフを構え、次の標的に狙いをつける。

レイスたちは、戦闘態勢に入りフレイアをにらみつける。


「・・・ひさびさに命を懸けた戦いになりそうだな・・・。」

「そうね・・・暫く平和ボケしてたし・・・油断は出来ないわね。」


その二人の言葉を皮切りに灼熱の洞窟の中、神を名乗りし者との死闘が始まる・・・。

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