Destiny 〜第3話〜     私は・・・フレイア(後編)


「さてと、始めましょうか・・・楽しい楽しい、パーティをね。」


フレイアが不適にそう笑うと、ナイフを構え戦闘態勢に入る。


「おい!大丈夫か、グレイ!?」

「なんとか・・・・・、やられたのが右腕だったらやばかったな。」


フレイアに切断された、グレイのプレート・アーマーからは、血が出ておらず、

中が空洞になっていた。グレイは過去の戦いで左腕を失っており、隻腕なのだ。

なので、切られたところで何の影響も無いのだが・・・、

鋼鉄さえも切断できるあのナイフ・・・、接近戦は絶対の不利と考えたレイスが

思いついた、あるひとつの策・・・それは・・・。


「ヴァニラ!!」


「分かってる!
 雷霊集いて、光と化して、我が目前の魔たるものを打ち砕かん!!
 ライトニング!!」


接近戦が不利、だからといって、この暑い戦場で長期戦も出来ない。

ならば、隙を作って止めを刺してやればいい。レイスの策、それは

ヴァニラの魔導術でフレイアに隙を作り、レイスで止めを刺すという、

単純だが、最も効果の高いものだった。


「うぐっ!!」


フレイアに雷撃が直撃して、フレイアはその場に膝をつく。


「チャンス!喰らいな、咬牙刃!!」


そして、レイスがチャンスとばかりに、切り上げから突きへの連携技を放つ、

これで先制は貰ったとヴァニラも確信するが・・・。


「なぁーんてね・・・。」


フレイアが近づいてくるレイスをナイフで切り裂く!


「うぐぅ!」


危うく避けるも、少し直撃を食らったようだ。

レイスの腕から鮮血が流れ、少し熱を持っている様子だった。

が、妙な違和感を感じ、それと同時におぼろげながら、敵の能力に気づいたようだ。

通常の痛み以上に熱を持った感覚、グレイの鎧の切断部の焦げた様な黒い後・・・、

レイスの導き出された答えは1つしかなかった。


「!、そうか、お前の能力は・・・。」


「フフ、気がついたようね。でも、それだけじゃ、私に勝てない・・・。
 この防戦一方の、状態を切り崩す事も出来ないわ。」


フレイアの能力・・・それは、熱を自在に操る能力。

さっきの、雷属性の攻撃が効果が無かった理由もそれで説明がつく、

これでは、炎は勿論の事、地と聖・・・そして、水も蒸発して効果がないだろう。

闇の属性攻撃は誰一人として使えない中、効果のある魔導術はただ1つ!

レイスはそれの名を大声で叫ぶ。


「ヴァニラ!風だ!風系の魔導術を頼む!」

「え!?・・・わ、分かったわ!」


ヴァニラがわけが分からなそうに答えると、詠唱に入った。


「疾風の拳が我が手の宿り、目前とするものを打ち貫かん!!
 エアー・ドライブ!!


ヴァニラの放った風の塊がフレイアに向かう・・・。

自動追尾ではないが、レイスと交戦中のフレイアにとっては、避けきれないはずだが・・・。

フレイアの身体は、レイスの想像していた以上に素早く動く。


「危ない、危ない・・・。」


レイスと距離を置き、避けられるはずの無いタイミングで魔導術をかわしたフレイア、

自らも熱で運動能力を上げているらしく、そのスピードは普通の人間のそれでは、

考えられないほどのスピードだった。


「ま、私の能力が分かれば、風で来るのは当然か・・・・。
 でも、あんな速度の空気鉄砲じゃ、意味は無いわよ・・。」


余裕の笑みを浮かべるフレイア、しかし、レイスの顔には絶望は消えていなかった。

むしろ、勝利を確信した笑みを浮かべていた。


「大した運動能力だな。しかし、一発だけとは限らんぞ?」

「な・・・に!?」


ヴァニラが攻撃したまったく違う方向から、吹雪がフレイアに襲い掛かる!

フレイアもその予期せぬ攻撃が直撃し、身体が吹っ飛ばされた。


「グ、グレイ・・・さん・・・?」


吹雪を放ったのはグレイ・・・正確にはグレイの右腕からのびる白い大蛇、

白く輝く鱗を持つ腕から、絶え間なく激しい吹雪が放たれていた。


「いけ!!ディアドラ!!!」


グレイがそう命令すると、吹雪の勢いは更に加速する。

フレイアの余裕の笑みは完全に消えうせ、苦痛の表情へと変わっていた。


「う・・・ぐ・・・。」


想像以上のダメージが与えられているらしく、フレイアに余裕の文字が消えていた。

その、麗容な顔は醜き心を映し出すかのごとく苦痛に歪んでいた。


「よし!効いている!!」

「か、完全に・・・舐めてかかっていたようね・・・でも!それだけじゃ、私は倒せない!!」


吹雪が止んだあとも、フレイアは多大なダメージが残っているようであった。

しかし、それを物ともしない気迫でレイスに向かい突き進んでいく。

レイスの持つ剣は鋼鉄製・・・例え受けた所で剣ごと、切り裂かれるように見えたが・・・


「な・・・・・・なに・・・・・・。」


レイスの剣は、見事フレイアのナイフを受け止めていた。

というよりは、レイスの剣に当たる手前でフレイアのナイフが止まっていたのだ。

フレイアも、驚きの表情を見せ、うろたえる。


「詰めが甘い!」


レイスはナイフをはじき返すと、フレイアに向かい切りつける!

さっきのダメージからか、スピードは落ちている様子だったが、

もともとの運動能力もすさまじいらしく、間一髪でその斬撃を避けレイスとの距離をとる。

しかし・・・。


「ああ!!」


フレイアの体から、鮮血が飛び散る・・・。

その避けたはずの体からは、剣で切られたような後がくっきりと残っていた。


「鉄で受けたところで切られるのなら、その間に風の層を作ってやればいい!
 俺の二つの名を知らなかったことがお前の敗因だ!」

「忘れていたわ、あなたが”魔刃”の名を持つ者だという事を・・・。」


レイスが余裕とばかしに、フレイアに食って掛かる、フレイアも、その言葉に反応するが、

それは、自らの油断を後悔する意味も取れた。

レイスの言う、2つの名・・・上級の冒険者なら必ず持つという、その名は当然意味があった。

魔を宿す、刃・・・すなわち、属性を剣に封じ込める、魔封剣という能力ゆえの名である。

そして、先ほどの斬撃の正体・・・それは・・・、


「宿した風の力を、刃と化して相手に放つ!その名も、蒼凰閃!」


「これで形勢逆転だな!」


グレイとヴァニラからも、希望の表情があった。

このまま、押し切れば勝てる!今は、誰もがそう信じていた。

しかし、フレイアは傷つきながらも、更に奥へと誘おうとしていた。


「流石にここでは不利ね・・・・。
 ついて来て御覧なさい、あなた達に、真の地獄を見せてあげるわ!」


そう言い残し、フレイアは洞窟の置くへと逃げ去っていく、

逃がしてなるものかとばかりに、グレイとレイスがその後を追おうとするが・・・、


「・・・・・・ヴァニラさん?」


ヴァニラの様子がおかしい・・・・・。顔が青ざめ、体が震えている。

この攻勢の中、何処に不安があるのか・・・、初対面のグレイはともかく

レイスには、そのわけが分かっていた。


「もしかして、ディアドラのことか・・・?」


レイスの答えにヴァニラは小さくうなずく、彼女は蛇が嫌いなのだ。

そのせいで、例えそれが魔物相手でも、攻撃の手が震える事がある。


「ご、ごめんなさい・・・。そんなこと言っている場合じゃないのは分かっているけど・・・。」

「大丈夫か?」

「大丈夫、今はそんな事言ってる場合じゃないのは分かってるから・・・。」


蛇の恐怖と戦いつつもヴァニラはレイスたちと共にフレイアを追う事にした。

ちなみにグレイの左肩から生えている大蛇は、ディアドラという精霊の一種で、

普段は、グレイの肩に埋め込まれた精霊石の中で眠っている。

グレイの呼びかけに応じて、さっきの吹雪(コールド・ブレス)や噛み付き

巻き付きで攻撃とする。剣士のグレイにとっては、遠距離攻撃が出来る大事な相棒だ。

フレイアを追い奥へと進む、少し歩いた所の小さな崖の上にフレイアがその赤髪を光らせ立っていた。


「フフ・・・・・遅かったじゃない。レディを待たすものじゃないわよ。」

「あ・・・・・・・ああ・・・・・・・あ・・・・・。」

「なんていう趣味をしているんだ・・・・あの女は・・・。」

「外道め。」


ヴァニラ、レイス、グレイが口々に、正直な感想を述べる。

そう、フレイアは確かにそこにいた・・・。

その手に、イグレストの生首を持ちその血を首から直接飲みながら・・・。

人の行動を超越したその行動に驚かない者は誰一人おらず、驚愕の表情を浮かべるのみであった。


「やはり、三流の血は美味しくないわね・・・。そうね、口直しにあなたたちの血をちょうだい・・・。」

「な!!」

「あ、あなた、本当に人間なの!?」


ヴァニラの口からやっと出た言葉・・・しかし、フレイアはそれに冷笑を浮かべ、こう言い放つ。


「人間?馬鹿なこと言わないで、私は、人間を超えた者よ!」

「・・・人間を捨てた者の間違いだろ・・・。てめぇなんざ、魔物以下のくず鉄だよ!」

「なら・・・・・あなたもそうなるわね。
 レイス・D・ラグナイト・・・いえ、製造番号:977351 コード:プロト・セレヴィー・・。」

「・・・!、お・・・お前・・・。」

「プロト・・・セレヴィー・・・?」


プロト・セレヴィー・・・その名を聞き、グレイが顔をしかめた。

ヴァニラが分からない表情を見せたが、グレイの表情から、その重大性を理解したようだ。

そして、レイスは・・・、


「その名を呼ぶなぁぁぁぁぁ!!」


吹っ切れたかのごとく、その場さえも振動させる絶叫をあぜながら、

フレイアに向かい、闇雲に突進していった!


「このくず鉄め!細胞一つ残さず消してやる!!」

「フフ・・・甘いわね!」


レイスが会心の一撃の如く、フレイアに切りつけようとしたその時!

レイスのそばにあった岩石が、爆弾の破裂するような爆発音を立て爆発した。

その破片一つ一つが熱を帯び、岩盤についた破片が音をたて、煙を上げた。


「う・・・・・・ぐわぁ!!」


完全に不意をつかれたレイスは、それを避けきれず直撃を食らう!

身体は当然、火傷まみれで、煙すら吹く状態・・・普通の人間なら気絶はしている状態だった。

しかし・・・。


「それが、それがどうした!!!」


怒りが身体の限界を超え、その熱持った破片を物ともせず、

フレイアにその勢いを緩めず突進していった!


「フフ・・・やるじゃない・・・。」


レイスの剣が、フレイアの身体を切り裂く・・・。鮮血がその剣を赤に染める。


「まさか、私の散斬華をうけてもなお突進してくるなんて・・・。」


討った!レイスは確かにその感覚を持っていた。

しかし・・・。


フレイア「・・・・・・でも、私は倒せていないわよ?」


レイ「な・・・に・・・?」


レイスは、確かに人間の肉を切り裂いていた・・・。赤き血にその身体さえ濡れていた。

しかし、赤く染まる剣の先にいたのは・・・。


「リサちゃん!!」

「な・・・なんで、こいつがここに・・・・・。」


ヴァニラのリサを呼ぶ声が、洞窟内に木霊する。

レイスも驚きの表情を見せ、暫く動きが止まっていた。

そんな、2人にフレイアは冷笑を浮かべ言い放つ。


「あなたが言った、神化プログラムのことがどうしても知りたいって聞かなくてね。
 取引をしたのよ。私が神化プログラムの全容を話す代わりに、
 もしもの時の身代わりになってくれるようにね・・・。」

「・・・・・・・・・。」


レイスは、リサの身体から剣は抜いたものの、言葉が発せられる状態ではなかった。

グレイもヴァニラも、その様子を見ることしか出来ず、時が止まるかのごとく

3人は、ショックゆえのある種の放心状態だった。


「ここまでうまくいくとは、思わなかったわ。
 この娘はあなたの手でもう少しで死ぬ・・・・そして、あなたも私の手で朽ちる事になる・・。」

「お前は・・・・・、お前は・・・・・。」


レイスが、ただただリサに語りかける。

リサはかろうじて目を開け、レイスの息が絶え絶えの状態で語りかけてきた。


「ワタシハ・・・ジブンノタメナラ・・・ナンダッテデキル・・・・・・、

 アクマニ・・・タマシイヲウロウトモ・・・

 ミズカラガ・・・キズヲツコウトモ・・・、

 ワタシハ・・・ゼッタイニアキラメナ・・・イ・・・・・・。

 ゼッタイニ・・・!」


自らの執念を具体化したような口調で語り終えると、リサは気絶してしまった。

多大な出血量だが、幸い急所は外しているらしい。

まだ、今すぐ助けようとするなら助かるかもしれない・・・。

しかし・・・この赤髪の死神はそれを許すわけがない。


「フフ・・・、もうこの子は用済みね・・・。
 さて、邪魔者は消えてもらうわ!」

「ちぃ!!」


フレイアが今こそ止めを誘うとした瞬間、レイスたちがいた足場が崩れ、

リサともども、そのまま転がり落ちた!


「レイ!!」


倒れているレイスたちに、ヴァニラとグレイが駆け寄る。

レイスがとっさにリサを抱き込んだ為、リサには落下による傷は殆どなかった。


「・・・・・ヴァニラ・・・・。」


思わず、己のパートナーの名を呼ぶレイス。

そんな、光景を見て、フレイアが嫌味気に言い放つ。


「フフ・・・・・運がいいわね。いいわ、あなたと私、1対1で勝負しましょう。
 私はさらに奥、この洞窟の最下層であなたを待っている・・・。」

「なに!?」

「早く来なさいよ・・・・・待っていてあげるから・・・。」


更に奥に誘うかのように、フレイアは挑発しつつ、闇へと溶けていった。

レイスは・・・そして、グレイもそれに関して疑問を持っていた・・・。

たった、1つのシンプルな疑問・・・それは・・・。


「何故、あの時に殺さなかった?」


レイスたちの疑問はそれである。リサが刺された直後、3人に素人目でも十分に分かる

隙があることは明白だった・・・いや、それ以前に、フレイアの運動能力を持ってすれば、

全滅させる事は十分に可能だった・・・しかし、それをしない。

何かある・・・レイスたちは、その奥にあるものを、その後ろにあるものを考えていた。


「レイ、回復を・・・。」

「俺はいい!それより、リサを!!」

「分かったわ。」


ヴァニラは、それよりもレイスの身体を心配していた。

しかし、それよりもリサの方が危うい、ヴァニラにリサの治療を任している間に

レイスとグレイはさっきの疑問について話し合う。


「・・・奴の・・・フレイアの真意はなんだ・・・?」

「・・・確かにな・・・イグレストを殺し、置き文までして、
 俺たちを誘い出し、それでいて、さっきの段階で殺せるはずの俺たちを殺さず、
 自ら手を引いた。何を考えているんだ・・・。」


疑問は膨らむばかり、しかし、当人がいないところでそれが分かるわけがない。

レイスもグレイも結局はフレイアの真意を理解できるわけがなかった。


「レイの回復も終わったわ・・・・ただ、私は暫くは魔導術を使えそうに無いけど・・。
 魔力が無くなったみたい・・・。」

「心配するな、これから先は、俺1人で片をつける。」

「大丈夫か?」

「どうとも言えんが・・・・・・、レディのお誘いは断ると後が怖いからな。」

「気をつけてね・・・・・生きて帰ってくるのよ・・・。」

「ああ!」


レイスの回復が終わったヴァニラが少し疲れた感じで座り込む、

レイスはヴァニラたちを残し、フレイアの消えた闇の奥へと進みだした。

その先に何があろうと、あいつが何を考えようと構わない。ただ、決着をつける・・・

レイスの頭にはそれしか入っていなかった。

そして・・・巣窟の最奥部に赤髪を輝かせるフレイアの姿があった。


「ふふ・・・・・・。最後の会話はもう済んだかしら・・・。」

「最後じゃない・・・・お前を殺し、全てを終わらせてやる!!」


先手を打ったのはフレイアのほうだった!

風の魔封剣で、レイスはフレイアのナイフを防ぎきると、

とっさに、切りつける!


「流石に、クズでも神というだけはあるわね・・・フフ!面白くなってきたわ。」

「お前たちと一緒にするな!!人である事を捨て、傲慢とエゴで生きているお前と俺は違う!!」


フレイアの散斬華を警戒しつつも、レイスが烈火の勢いでフレイアを攻める!

激しく、レイスの剣とフレイアのナイフが火花を散らす中、

フレイアは不適に笑みを作る。そして・・・・・。


「!!」


レイスの周りのある岩という岩が、熱を持って破裂する。

全方角から迫る、灼熱の岩に対処できるわけでもなく、レイスの身体が灼熱の中に飲まれた。


「・・・意外とあっけなかったわね。」


フレイアがその灼熱の海を呆然と見つめながら言った。

しかし・・・。


「いいや、まだ終わってなんてない・・・終わるのはこれからだ!」

「!!、何故、あなたがここにいるの!?」


レイスは、フレイアの背後立っていた。

散斬華による灼熱の海の中を突っ切っていったため、体中、火傷だらけで・・・。

しかし・・・状況から見たらレイスのほうが優勢である、喉元寸前にかけられた

冷たく光る鉄の刃・・・フレイアの動くより先にレイスがその首を取れるのは明白だった。


「一瞬の油断が命取りだな・・・。」

「そうね・・・まさか、あれだけの散斬華に耐え切れるなんて、思っても見なかったわ。」

「あれくらいに耐えないと、冒険者なんてやってられないんでね!」


レイスが、勝利へと確信し、フレイアも自らの死を悟るかのごとく諦めきっているようにも見える

しかし・・・、真の心が読めないこの女の心理は分からない・・・。

この戦闘中でそれで何度だまされたか・・・レイスの手はまだ力は抜けていない。

それを感じたフレイアは更に言葉を続ける。


「チェックメイト・・・かしら・・・。」

「そうだな・・・・俺の勝ちだ!」

「そうかしら・・・?私は今から逃げる気でいるんだけど・・・・。」

「何!?」

「じゃーね。プロト・セレヴィー・・・・また、遊びましょう・・・。」


フレイアがそう言うと、光が包み込みだした、

レイスが、剣を動かした頃にはその光に向かい空を切るのみで、

フレイアは光の中に消え去っていた。


「エスケープ・コイン・・・か。」


迷宮脱出用のルーンを彫られたコインでフレイアは逃げ去っていた。

追おうにも、レイスはもう体が動かない・・・そして、画面は暗転、ブラックアウト・・・・・・。


             ウォスカ城2階客室


レイスが目を覚ますと、きらびやかな装飾が施された部屋の中にいた。


「ここ・・・・・は・・・・。」


体中が痛むのを感じ、身体を見ると身体は包帯だらけだった。

そして、その傍らには・・・。


「・・・・・・!!レイ!」

「ヴァニラ・・・・・・。」

「良かった!!もう目を覚まさないのかと・・・・。」


ヴァニラに泣きながらレイスに抱きついてきた。

レイスは顔を赤めながらも、ヴァニラを抱き返す。


「・・・・・・・」

「半日も・・・ずっと・・・目を覚まさないから・・・。」

「そう・・・か・・・・。」


肩に濡れるひとすじの雫・・・それはヴァニラの涙・・・。

苦楽を共にしたパートナーとして・・・そして、大切な人間としての思いがそれに凝縮されていた。

泣きじゃくるヴァニラをただそっと手を回るレイス・・・恋人ではないが大切な人間・・・

その部屋の時はただ静かに流れていた。部屋のドアが開くその時までは・・・。


「レイ、起きたk・・・・・・ってすまん、続けてくれ!」

「グレイ・・・さん?」

「いや、お楽しみを邪魔しちゃ悪いだろ?」

「え・・・・・・あ・・・・・・ご、ごめんなさい!!」


われに返ったヴァニラが赤面しながらレイスから離れる。

ずっと泣いていたらしく、目もかなり充血している様子で必至にごまかす。

さっきとはがらりと違う、パートナーの姿にレイスも少し失笑気味だった。

そして、気を取り直し、ヴァニラが重く口を開いた。


「グレイさんから、全てを聞いたわ。
 神化プログラムの真相・・・そしてあなたが、その被験者だってことも・・・。」

「そうか・・・。」

「信じられない・・・・・私たちが信じていた神や魔物が
 全て人が作っていたなんて・・・・・。」

「言ったろ、これが広まると、神や魔物の存在が覆されるって・・・。」

「・・・・・・・。」


神化プログラムの真実・・・それは、ヴァニラの常識を覆すのに十分な内容だった。

いまは、落ち着きを取り戻しているが、それは、それ以前に驚きつくしたからであり、

それを知るグレイは、笑をこらえつつ、黙り込んでいた。

そんなグレイを見て、レイスが不思議そうな顔をする。

ヴァニラは、当然、そんな事を気づかず黙ってレイスを見るだけだったが・・・。


「要約すると・・・」


ヴァニラが神化プログラムの概要を語り始める。

神化プログラム・・・はるか昔、文明が最も発達していた頃に、生み出された禁断の技術・・・。

簡潔に言えば、人間や生物の遺伝子を配合させ、それまでの人間にはない力を与えるもの。

レイスは愚か誰も、現在その技術を持っている者はいないはずで、

もはや、失われた技術とばかり考えられていた・・・。

この世界で伝えられる全ての神や魔物がその力により生み出された者、

あるいはその異種配合体だと、それを知るものは聞いている。

レイスも、そのうちの1人でさっき言ってた魔封剣も、その能力によるものだ。

ヴァニラがひとしきり話し終えると、グレイが誰かを部屋に招き入れた。


「レイ、お客さんだ。」

「誰ですか?」

「・・・・・・。」


扉の前にいたのは、リサだった。後ろめたそうにこちらを見ている。

心配そうに見るヴァニラだが、レイスは殺気に近い目でリサを見ていた。


「リサちゃん・・・。」

「・・・や、やっほー・・・。元気・・・・してた・・・?」


バツが悪そうに、詰まり詰まり発言するリサ、

いつもの様子とはまるで違うそれは、元気のなさを明らかにしていた。

が、レイスは情け容赦なくリサに問い詰めた。


「何しに来た?」

「レイたちのおかげで助かったわけだし、お礼・・・・言いたくてさ。」


レイスは、ベットから身体を起こしリサに近づいた。

リサの身体が強張り、顔面蒼白でレイスを見ている。

そして・・・レイスがリサの頬をひっぱたいた。

乾いた音が響いた後、静寂が部屋を包み、誰も喋ろうとしない。

リサ自身も何が起こったかわからないと言った顔をしていた。

静寂が部屋を包む中、レイスが口を開く。


「この事を、世にさらす気か?神化プログラムの真実を・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「お前が、この真実を知り報道する事を止める権限なんて、俺には無い・・・・。」

「・・・・・・。」

「しかし・・・。それを知った人間が、世界がどう動くか、分からないお前ではあるまい・・・。
 その混乱を起こした責任は・・・・。」


淡々とリサに問い詰めるレイス・・・それを聞き、ただ黙するリサ。

そして、レイスの話の間を割って、リサが口を開く。


「しないよ。」

「?」

「報道しないって言ってるの。お城の人にも同じ事を言われたしさ。
 それにまだ情報不足だから・・・・まだしない・・・。」

「そうか・・・。」


リサの、その一言でレイスの顔に安堵が戻ったようだ。

前のような殺気はもうない・・・リサもやっと一息つき、崩れるようにイスにもたれ掛かった。

グレイとヴァニラも安心したかのごとく、顔を緩めていた。


「一件落着・・・かな・・・?」

「そうですね。」


リサの問題は、一応は片付いた。そして、残る問題は、ただ1つ。

レイスがそれをグレイに問いかける。


「グレイ。フレイアの件はどうなった?」

「それなんだが・・・・・。」

「大きな仕事・・・・よねぇ・・・。」

「?」


分からない・・・そんな感じのレイスにグレイが一枚の用紙を取り出し、読み上げる


「レイス・D・ラグナイト及びヴァニラ・クレセートに
 ウォスカ女王 ライズ・ロンド・ウォスカディアが次の依頼を与える。
 両名は、グレイ・ゼフィロスと共に逆賊フレイアを追跡及び抹殺せよ!
 期限は無期限、支給金は移動・通行に関してのみだが支給される。
 クラスはSSS・・・・どんな依頼よりも優先せよとのことだ。」

「賞金は・・・?」

「結果次第・・・だって・・・。」

「そうか・・・・。」

「詳細はこの用紙を見てくれ。
 じゃ、俺は準備があるからまた後でな。」


そう言うと、グレイは出て行った。

残されたレイスとヴァニラは、今後のついて話し合う。


「どうする・・・レイ?」

「お上の命令だからな・・・・・やるしかないだろ!
 俺は、それに神化プログラムの暴走を止める義務がある。」

「そうね・・・。真実を知った以上、私も無関係とはいえないしね・・・。」


話し合うといっても、答えは決まっているようなもので、

新たなる仕事を受けた2人は、リサの方に目を向ける。


「わたしは・・・・・。」


リサが言い終わらないうちに、レイスが口を挟んだ。


「お前はもう、自分の仕事へ戻れ!そして、今後とも俺たちにかかわるな!いいな!!」


これ以上、巻き込みたくない・・・厄介払いとも思えるが、

レイスのそれは、リサの身を案じての事だった。

しかし・・・、


「嫌だよ・・・・!」

「何・・?」

「私だけ、臆病風吹かせて逃げろって言うの?
 そんなの絶対に嫌!!」


リサは、それを真っ向から否定する。

自分もかかわった・・・ならば、最後までそれを貫く・・・、

これはジャーナリストとしての意地ではなく、リサ・クラナギ本人としての意地だった。


「でも・・・・危険よ・・・・?」

「何もこの仕事は戦闘だけじゃないでしょ?私だって、情報の面ではサポートできるんだから!」

「しかし・・・・。」

「しかしも、かかしもない!!やるって言ったらやるの!!」


まるで駄々っ子・・・。こうなったら、どうにもなら無さそうだ。

レイスもヴァニラも、そう考えていた・・・しかし、戦闘が出来ない人間が

この仕事を手伝う・・・それは不可能に近い事でもあった。

ただ、1つの事を除けば・・・だが。


「じゃあ・・・・。リサちゃんを専属のオペレータにしましょうよ!」

「こいつをか・・?」

「そう!リサちゃんの情報量や管理能力を期待してさ。ね、リサちゃん!」

「さっすが、ヴァニラ!話が分かるぅ!」




オペレーター・・・・いわゆる、冒険者ギルドに1人はいる情報や給金を管理して

冒険者に裏で様々なサポートをする、いわば裏方・・・。

情報面で色々活用できるとなれば、そちらにまわした方が都合がいい・・・

ヴァニラはそう考えて、リサにそれを指定したのだ。

そして、もう1つ理由があるが・・・。


「毒をもつ毒蛇は、近くで監視しておいた方が良いしな・・・」


レイスが、その理由をポツリとつぶやいた・・・リサに聞こえない程度に・・・。


「?・・・何か言った??」

「い、いや、なんでもない!!
 それはともかく・・・、オペレーターの件は俺が後で女王に取り次いでくる。
 やると決めたらしっかり頼むぜ!リサ。」

「まっかせといて!」


聞こえかかったが、ごまかすレイス、それをみて苦笑するヴァニラ

そして、何がなんだか分かっていないながらも、新たな仕事に闘志を燃やすリサ

新たに2人の仲間を加え、レイスとヴァニラは世界をまわることになる。

神化プログラムの悪用する咎人を追う為に・・・そして、それを今度こそ完全に消し去る為に・・・。

レイスたちは、新たなる戦いへの一歩を踏み出そうとしていた。

            名称不明な何処か・・・。


「フフ・・・・・・・。楽しみになってきたわ・・・・。」


何処だか知れない場所で、フレイアが男と対面する。

その顔は逆光で見えないが、鉄製に何かが鈍く光っている。


「万事に抜かりは無いな・・・・・・?」

「大丈夫よ。例のお姫様もよーく眠っている事だし・・・・。
 あの坊やさえ潰せば、後は烏合の衆になるでしょ・・・。」


低い声でフレイアに状況を聞く、謎の男・・・フレイアはそれをペースを崩さず返す。


「彼奴らの力を侮るな・・・・!お前とてただでは済まんぞ!」

「了解しました・・・。我らの理想のために我が剣をあなたにささげましょう・・・。
 ・・・・・・なぁーんてね・・・これじゃあなたの部下みたいじゃない。」

「・・・・・・。」

「フフ、そう怖い顔しなくてもいいじゃない。
 全てはここからよ・・・。」


フレイアが全て言い終わるころには、男は姿を消していた。


「そんなに急いで・・・何処に行くってのかしらねぇ・・・。」


誰に話すことなく、ポツリと呟くフレイア・・・。

そして、言葉はこう続く・・・


「全てはここから・・・。戦いは、ここから始まるのよ。坊や・・・。」


どこか、赤く輝く空の下、フレイアは冷笑を浮かべ、

赤い空を眺めていた・・・・。血のように赤く輝く空を・・・。

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