Destiny 〜第4話〜     神の子と言われた少年


「預言者ぁ〜?」

「こっちだって、それしか手がないのよ!こうも、情報がないとこっちだってやりようがないじゃない!」


レイスがリサの持ってきた情報に半信半疑・・・いや、まったく信用していない様子で答える。

その証拠にその言葉だけでなく、顔や態度にもそれと分かる状態がリサの目に写っていた。

もっとも、リサ自身もこの情報自体に納得している訳ではなく、苦渋の選択の末の決断なのだが・・・。

それに対して、逆切れとも取れる感じのリサの対応・・・明らかに不機嫌な態度を表に表している。

笑顔が多い彼女としては珍しい光景だが、それも無理がなく彼女の持てる全ての情報網を駆使しても

逆賊フレイアの行方は見つからない。それの苛立ちとストレスで多少、気が立っているようだ。

ちなみに、リサだけではなく、レイスやヴァニラ・・・そして、グレイを通じてウォスカ政府も、

色々な所で情報を集め網を張るが、空に消えたか地に潜ったか・・・煙のように消え、

その後の行方を知る者は誰一人として、いなかったのである。


「預言者ねぇ・・・。」

「あ!ヴァニラまでそう言うの!?」


ヴァニラまで半信半疑の答え方にリサの顔が真っ赤に膨れ上がった。

そんな光景を見てレイスもヴァニラも笑いが混じっていたが、蛇女の鋭い目線がそれを許さない。

蛇に睨まれたカエルの如く、レイスとヴァニラの笑みも消えて黙り込んでいた。

ちなみにレイスやヴァニラが疑問を持つのはもっともで、

この世界の各地の情報が整備され様々なところにメディアとして伝えられる中、

占いや予言と言った不確かな情報源を信用する者は殆どいないのが現状だからだ。

そんな中、フレイア捜索と言う重要な任務にそれを使うとなると2人の反応も当然である。

と言っても、リサ自身もそれに納得してる訳ではない。どんなに情報をかき集めても外ればかり・・・、

”確かな情報”を信条とするリサにとっては不本意なものだが、時間的にも精神的にも限界が来ている。

そんな中、藁をも掴むかの如く、その情報に賭けてみることにしたのである。


「でも、レイ。リサちゃんも私達もあいつの足取りが掴めないんじゃ・・・しょうがないかもね。」

「・・・そりゃそうだが、予言なんて俺は信用できねぇな。」


ヴァニラがリサを弁護するが、レイスはやはり納得がいってない様子だった。

黙ったと言っても相変わらず信じていない様子・・・さっきと思惑は変わっていないようだ。

というのも、レイスが占いや予言をまったく信じないと言うのもあるのだが・・・。

本人曰く「そんな物に頼らず、運命なんて自分で切り開け!」だそうで、結果を信じるどころか、

占いや予言と言った類をまったく聞いてもやってもいないのである。

それを知っているヴァニラは半分諦めたようにため息をついた。

こうなったらテコでも動きそうにない事を知っていたから・・・。


「レイ!!」

「ん?・・・なんだ、グレイか。どうした?」


そんな殺伐な空気が流れる中、荒々しい金属音を立てながら息絶え絶えでグレイが部屋に入ってくる。

よほど急いでいたらしく、顔全体が真っ赤に染まっており、手加減なく開け放たれた扉は派手な音を立て

壁と衝突する。普段なら、そういう事はやるどころか注意する側のグレイがそれをやると言う事は、

相当な急ぎの用件であると言う事だろう。そして、それはレイスにとって吉報とも言える事であった。


「新しい情報が見つかったぞ!」

「何!?」

「と言っても・・・」

「と言ってもなんだ?何かあるのか!?」

「と、その前に俺を揺さぶるのを止めろ!!」


思わず、椅子から急に立ち上がり座っていた椅子が音を立てて床に倒れる。

しかし、そんな事を気にせずにレイスがグレイに情報を内容を問いただす。

それも、肩を掴んで前後に力任せにシェイクしながら・・・流石にグレイも喋ることすら出来ない。

鎧を着ている故に派手に金属音を立てて辺りに騒音を撒き散らし、外にまで当然響き渡る。

だが、レイスは、それに集中しきっているが為に周りの事を忘れ、それにすら気付いていなかった。

横で、リサとヴァニラの失笑に気付きもせずに・・・。


「ゴホ・・・レイス、お前は少しは落ち着け・・・。」

「わりぃわりぃ、回り見えて無かったわ。」

「・・・ったく・・・。」

「で、情報って?」

「まぁ、正確に言うと情報屋が見つかったと言うだけで、情報自体のことではないんだがな。」

「情報屋・・・?今度こそ、確かなんだろうな?」

「ま、今までの中で最も信頼できるといっても過言じゃないな。」


落ち着きを取り戻したレイスに開放され、咳込みながらもその情報を話すグレイ、

レイスとグレイのそれを聞き、さっきまで失笑をしていたヴァニラも目の色を変えた。

ヴァニラもレイス同様、フレイアの足取りを追っているのだから当然と言えば、当然なのだが・・・。

ちなみに、レイスの如く周りを見えていないという事は無いようで、外身は落ち着きを保っていた。

レイスも落ち着きを取り戻し、グレイに詳しい話を聞く事になる。


「なんでも、ランドォールの外れにその情報屋がいるらしい。」

「ランドォール・・・?ウォスカ大陸北部の田舎町じゃないか。そこの外れという事は・・・相当山奥だな。」

「そうだ、だからこそ今まで見つからなかったんだよ。
 情報屋って言ったらそんな山奥には普通はいないからな」

「・・・まぁな。」

「で、どうする?行くか?」

「ん〜・・・。」


グレイの問いにレイスが一瞬だが顔をしかめる。その理由は情報屋の条理にあった。

情報屋は、情報を集めるにしてもそれを買ってもらえるにしても大きな町にいるのが常識である。

その方が集めやすいし、色んな人物に買ってもらいやすいという至極単純な理由からなのだが。

もっとも、そういう人物が目立つ事も無いのが普通で裏通り等、目立たない場所にいる事が多い。

それでも、田舎町のそれも山奥に情報屋が住んでいると言う事はいくらなんでも不自然ではないか?

そんな考えが誰にも浮かぶ・・・当然、レイスにもそれは浮かんだのだが追い詰められた状態で、

それを考える訳にはいかず、2つ返事で会いに行く事を了承する。ヴァニラやリサも同じ意見のようだ。

ただ・・・リサが少し怪訝な表情を見せたが、それは誰も気付きはしなかった。



               ランドォールの町



町に着いた一行の目に入ったのは、数多くの田畑・・・大小数えて20以上は有るだろうか。

その田畑の脇に点々と藁葺きの屋根があり、そこらにある藁の束と見間違えそうだが”家”が点在する。

レイスがリサと出会ったカルフォニアもリサ曰く、相当な田舎だと言うが、これは更に上をいっている。

田舎が多いとされるウォスカ大陸だが、この様な場所は極めて珍しいらしく、

世界を回ってみていたはずのレイス達もその光景に各々見入っていた。


「ここ・・・本当に町・・・なのよねぇ?」

「人でしか作れない、田畑があるんだ。人は住んでるだろう。」

「それは、わかるけど・・・凄いわ。ここまで広大な場所、見た事ない!」


カルフォニアでさえ、色んな家々があり全体から見ると大地よりも家の方が目に入るが、

ここ、ランドォールはそれより先に大地が目に入る。その現代では中々見れない光景に、

ヴァニラはただ驚きを隠せないといった様子でレイスに問いかけた。

レイスもヴァニラほど興奮はしてないもののその光景には流石に見入っている様子で、

興味ないそぶりで答えていてもその広大な田畑を見渡していた。


「しかし・・・ここに本当にいるのかねぇ。情報屋とやらが・・・。」

「と・・・聞いた話だと、ここの森を抜けたところにあるみたいだな。」


グレイが指差す先にある青々とした森・・・まさにその字の如くの手付かずの自然と言ったところか、

木々が生い茂っているが、隙間から入る光により、それほどまでには暗くはない。

だが、木々が遮り見通しのほうはあまり良くないようだ。


「少し休んでからでも良いと思うんだけど・・・。」

「そうだな、しかし、ここに宿泊施設があるのか?」

「っと、この町は俺も行った事がないからな・・・ちょっと、聞いてくるよ。」


ヴァニラが少し疲れた様子でそれを言うとレイスも承諾する。

と言っても、この田舎町に宿屋・・・と言うより商業施設があるのかと言われれば疑問なのだが・・・。

ウォスカから遠く離れた田舎町、テレポ・ポインタ(転移装置)が無いとの事で、馬車移動で来たとは言え

その長い道中は決して楽なものではなかった。数々の進化プログラムの遺品・・・魔物達が、

その血肉を食らおうと、その持ち物を奪おうとレイス達に牙を抜けてきたからである。

集団行動で数に物を言わせて襲ってくる、ソルジャー・アント & クィーン・アントや

子供並の知能を持つ知的な狼ウォー・ウルフ、大雀蜂キラー・ビー、その他、数々の魔物共・・・。

と言っても、凄まじいのは数だけであり、戦い慣れしたレイス達にとってはただ鬱陶しいだけの

烏合の衆でしかない。、それでも、その数多くの戦いは体力的に蝕んでいたらしく

レイスたちの体力はあまり上等とはいえない状態だった。


グレイが、町の中を探索して数時間後・・・、


「宿は無いが、農家の人が泊めてくれるってさ。」

「・・・それは良いんだが、なんだ?その野菜の束は・・・?」

「いや、どうしてもって言うから・・・ついな。」

「・・・どうするんです?それ・・・?」


休憩場所を取ってきたのは良いが、どうやら、余計なお土産まで貰ったようで・・・。

農村のお約束である、農作物押し付け攻撃(作者談)により、

グレイは多くの農作物で両手がいっぱいだった。流石に2人とも苦笑気味で、返す訳にもいかずに、

しょうがないので、馬車に乗せておく事に・・・。

炎天下の中、腐らないようにディアドラが適当に氷を作って一緒に木箱に詰め込む。

まぁ、これで数日は大丈夫だろうとレイス達は泊めてくれると言う農家へと向かった。


その夜・・・。干草のベットに木の香りが漂う空間・・・馬小屋とも間違えそうな部屋に中、

ヴァニラが持参してきた本を読んでいると、コンコン・・・と誰かのノックの音が聞こえてきた。


「何・・・?」

「ヴァニラ、俺だ。グレイだ・・・ちょっと良いか?」

「はい?グレイさん?どうぞ、開いてますから。」


どうやら、グレイが話があるということで訪ねてきたらしい。

その話とは・・・今回の情報屋の正体・・・、レイスに話しては絶対に来ないであろう、その人物の正体を

ヴァニラにだけ話しておくとのことだった。それは・・・。


「・・・じゃあ、情報屋じゃなくて?」

「そういう事だ・・・これでも1番、信頼性がある預言者だぜ?」

「レイが聞いたらどう答えるか・・・。」

「大丈夫だ!着いてから納得させるさ。」


不安をあらわにするヴァニラ、グレイはそう言うもののレイスの頑固さはかなり知れ渡ってる事であり、

当然グレイもそれを知っている。それでも、納得させられるのだろうか・・・?

ヴァニラの不安げな顔を見てもグレイは大丈夫だというばかり・・・まぁ、自信の程は不明だが、

そう言うのなら・・・と言った感じでとりあえず、納得したようだ。

そうして夜が更けていき、日が完全に昇った朝・・・レイス達は、丁寧に農家の夫婦にお礼を言い、

お約束のお土産を馬車に積みなおし、情報屋のいるという森の前にいた。皆で頷き合うと、

陽光が照らす森の中に各自入っていく・・・。森の中は外見どおり、まさに木の塊で樹齢数百年・・・、

いや、数千年ともいえそうな巨木が目の前に広がっており、ヴァニラのみならず、レイスやグレイも

その絶景に魅せられていた。


「凄い・・・森林浴にはもってこいの場所ね。」

「森林浴、つーか、世界遺産レベルだな。ここまで来ると。」

「良い場所だが、場所が場所だけに来る人も少ないようだがな。
 だが、静かに陽光を浴びるのも悪くは無い」


レイス達が各々感想を言いつつも話しながら森を進んでいくと、目的地と思われる小屋を発見した。

実際、情報屋の住む家とは確認できないが、丁寧に整備された家や周りから人が住んでる様子・・・。

情報屋でなくても、それを知っているかもしれないと言う事で、レイス達はその小屋へと足を進める。

しかし・・・その主と思われるものがそれを許しはしなかったようである。


「な、なに!?」


刹那、風が動いたと思うとレイスの横に風とは違う何かが動く・・・それは、完全に空気ではなく物体。

その証拠に、自然では発生しないはずの不自然な傷がレイスの頬にできていた。

それはナイフで出来たような傷・・・しばらくして、血が頬から垂れてくる。

ヴァニラとグレイもそれを見て警戒し、辺りを見回す。

何かがいる・・・人か魔物か分からないが、殺意の持った何かが、この森の中にいる。

3人の中に緊張が走り、暫く時が止まるかのごとくの静寂が森の中を包んだ。そして・・・。


「そこだ!!」


レイスがそれと思われる場所に斬撃を放つ、かすかに手ごたえがあったものの、

すぐさま木の影に隠れてしまった為、何かは確認できない。

しかし、相当に素早い何かが、レイス達に明らかな殺意を持って襲ってきているのは確かである。


「どうするの?そこら一体、魔導術でなぎ払ってみる?」

「ちぃ!しょうがない・・・ヴァニラ、頼む!!」


ちまちまやっていても効果は薄い・・・ならば、魔導術で一気に仕掛ける!

森の木々は多少もったいないが、それより我が身を優先させるしかない。

レイスに頼まれ、合点承知とばかりにヴァニラが詠唱を始める。

しかし、それを確認するや否や、それはヴァニラに向けて襲ってくる。

その手に持った、あるいはその手自身が、ヴァニラの首筋を狙い、微かに光り輝く。

詠唱中のヴァニラには、避けることは不可能・・・無防備な身体に血が染まると思われたが・・・。


「待ってたぜ。お前がヴァニラを狙う事をな!!」


その前に、レイスのブロード・ソードがそれを止めていた。

そして、止めている刃ごと、相手を薙ぎ倒し地へと膝を付かせる。

その姿は・・・黒装束に身を包んだ、黒髪に多少銀の入った男・・・。

その手には、レイス達を襲ったと思われる一本の戦闘用のナイフが握られていた。


「逃がすかよ!!」

「チィ!!」


すかさず、森の影に隠れようとした男に向かうもう1つの刃、白銀に輝く刃が男に更なる傷を加える。

グレイがその重層な鎧を物とせずに俊敏にスレイヤー・エッジで切りつけた。

鮮血が森に飛び散り、美しい樹木は赤く染る。、これで多少は動くが鈍るかと思われえた・・・が、

動けないほどではないらしく、俊敏な動きは影の如く森の中へと溶けていった。


「・・・何なんだ。あいつは?」


レイスがポツリと言う。ちなみに、他の2人も同意権らしく怪訝な顔がそれを語っていた。

しかし、油断していたという訳でもない。空間から出る刃をレイスの剣が見事に受け止めていた。

が、空中に浮かぶは刃のみ・・・その先に見えるのは森というより空間。

大型のナイフを投げてきたのだろうか?本来、接近戦用のアタック・ナイフの様に見える、

その大柄な刀身は”投げる”と言う事に向いていないように思えるが・・・。

一瞬の戸惑いから、更に驚くことに刀身は自然に素早く森へと帰っていく。


「これ・・は・・・?」


しかし、レイスが驚く隙も無く、新たな刃がレイスを襲う。

段々とその勢いも増していき、対応しきれずにレイスの身体に傷が徐々に付いたいく。

しかし・・・何故かレイスだけを狙っているようで、グレイもヴァニラも警戒するものの、

ナイフが飛んでくることは無いようだ・・・何故かは分からないが・・・。


「く!!」

「レイ!!」


レイスを庇う様に前に立ちはだかったグレイに刃が突き刺さる。それは軽く金属音を立て、

勢いよく崩れ落ちた・・・が、レイス達はその正体が分かったようだ。

それはやや太いワイヤー。つまり、ナイフからワイヤーを通して刃のみ飛ばしていたのだ。

ナイフの刃はすぐさま戻っていったが、これが分かれば全て理由がつく。

さっきの男がこれをやっていたと言う事は、

1人しか狙わなかったのではなく1人しか狙えなかったのである。

近距離を木々の合間を飛びながら高速にナイフを飛ばしていたわけだ。

距離が離れているグレイやヴァニラを狙わずに1人であるレイスのみを狙い、

1人づつ、確実に殺って戦力を少しづつ削ぐのが相手の作戦らしい。


「セコイ事を考える野郎だ・・・。ならば!!」

「・・・!、レイ!!」

「任せな!今度、刃を飛ばした時にはあいつを行動不能にしてやる!」

「・・・え?」


レイスが何かを思いついたらしく、辺りを警戒しつつ1人前へ出る。

ヴァニラが不安げにレイスの名を叫ぶがレイスは、勝機があるかのごとく様子である。

1人になった事を確認すると、すぐに刃がレイスに向かい飛んでくる。それを剣で受け止めるが・・・。


「・・・!!!!!」


黒装束の男の声にならない声が微かに響く、レイスの剣に高圧の電気が宿っていた。

その刃には帯電してる・・・つまり、雷属性の魔封剣を発動させていたのだ。

通常、魔封剣も魔導術同様に詠唱は必要だが、属性をつけるくらいならすぐに出来る。

あの刹那の間に、レイスは魔封剣を発動させ、網を張っていたのである。

鉄のナイフにワイヤー・・・電気を通すのは当然といえば当然で、帯電した男は暫く動けないだろう。

レイスがそれを確かめに男のそばへと向かう。

それを追うように、グレイとヴァニラもレイスと間を開けないように進んで行く。


「殺せ・・・。」


レイス達の予想通り、男は少し帯電した様子で動けないでいた。

致命傷という訳でもないが、大量の電圧を受けたショックで感覚が麻痺しているようだ。

その隙にグレイが男の身体を縛り見動きを取れないようにして、

ヴァニラがパラライシズを唱え、男を麻痺させ拘束を強める。喋れる程度に威力を弱めてだが。

男の方は自らの敗北を悟り、自分を殺すように言うが少しでも情報が欲しいレイスはそれを許さない。


「お前には聞かなきゃならん事がある。ハイ、そうでるかって簡単に殺せるか!」

「・・・しかし・・・拷問を受けたとしても俺は喋らんぞ?」

「・・・野郎を拷問する趣味も無いが、とりあえずは質問させてもらうぞ?」

「レイ・・・貴方、女の人には拷問する趣味があるの?」

「ちょっと待て!何でそうなる!?」

「だって、男には拷問する趣味が無いって・・・。」


ヴァニラがレイスを軽蔑の目で見る・・・まるで、獣でも見るかの目つきで・・・。

レイスは必死に否定するものの、ヴァニラの目は変わらない。

グレイがそれを見て苦笑しているが、内心面白いのか否定はしていないようだ。


「敵を目を前にして・・・余裕だな。」

「敵はお前1人で動けない・・・なぁに、聞く時間はこれから十分あるさ。」

「・・・ふん。」


男が皮肉めいて言うが、グレイがそれに余裕で答える。周りにはこの男1人しか敵がおらず、

グレイの言うとおりに動けない・・・多少の余裕は出来て当然なのかもしれない。


「喋らなければ、それでも良いさ、あの小屋に入れば分かることだ。」

「・・・!!!」


口論を続けるレイスとヴァニラを他所に、グレイが相変わらず無言の男に話しかける。

しかし、グレイの一言で初めて動揺のした態度を見せ、顔に汗が滲んでいた。

どうやら、あの小屋には余程のものがあるらしい。「殺せ」と言った男が動揺しているのだから、

命に代えても守らなければならない何かがある。

それは何かはわからないのだが・・・。


「・・・もういいよ、リオス。その人たちは僕の客だそうだ。」


不意に聞こえてきた少年の声・・・金髪の多少長い感じの髪、

服装は白いローブで身を包んでおり、それ以外は普遍的な少年の服装である。

口調は多少大人びており、どこか悟ったような雰囲気をしているが・・・、

彼が、黒装束の男が守ろうとしたものなのだろうか・・・?


「君は・・・?」

「グレイ・ゼフィロスさんですね。そして、レイス・D・ラグナイトさんにヴァニラ・クレセートさん」

「・・・な!?」


初対面の人間に自分達の名前を言われ、グレイはおろか、口論していたレイスとヴァニラも

少年の方に目を向ける。なんで、この少年が自分達の名前を・・・?

疑問をあらわにしたレイス達を分っていたかのごとく、少年は笑顔でレイス達を見ていた。


「まず、リオスが貴方達を襲ったことについてはお詫びします。本当にすいませんでした。」

「・・・。」

「僕の名前はティンクラル・セレティス、ティンクで結構です。そして、彼はリオス・ベルディウス・・・」


山小屋・・・と言うか近くで見るとログハウスのような丸太小屋の中に案内された後、

レイス達にこれまでの謝罪と軽い自己紹介をするティンクラルと名乗る少年。

彼が、グレイの言う情報屋なのだろうか・・・しかし、それ以前にレイスは聞きたいことがあった。


「・・・俺達が来ることを知っていたのか?」


開口一番にこう告げるレイス。名乗ってもいないのに、フルネームで名前を言われるとあっては

当然と言えば、当然なのだが・・・。ティンクラルは、相変わらず全てを知っているかのように

ペースを崩さずにレイスの問いに答えた。


「ええ、あなた達が来ると言う事は予想してました。その前にリオスがあなた達を襲うことも・・・ね。」

「予想・・・?」

「聞いていませんか?僕は、預言者・・・グレイさんが言っていた情報屋です。」

「な・・・!」


あっけに取られる様子のレイス・・・情報屋と聞いていたのだから無理も無いのだが・・・。

そして、グレイを睨み付ける。予言を信じないレイスにとってはまさに寝耳に水な事だったのだろう。

驚きと嫌悪を混ぜたような・・・そんな表情で・・・。しかし、口を開いたのはティンクラルの方だった。


「ふふ・・・貴方はそういう類の事を信じないんでしたね。レイスさん」

「・・・」

「それとも・・・プロト・セレヴィーとお呼びした方が良いですか?」

「・・・!!」


知りうるはずの無い情報・・・ティンクラルの話に耳を傾けなかったレイスだが、

その一言で顔色を変えた。そして、その名を忌み嫌うレイスは当然の如く嫌悪の対象を少年に変える。

しかし、ティンクラルはそれすらも分っていると言った様子で顔色ひとつ変えずに笑みを浮かべつつ

レイスを見ている。その様子を見てレイスも舌打ちをしながら、顔を背ける。


「失礼・・・この言葉は禁句でしたね・・・しかし、それくらい言わなければ、貴方は信用しないでしょう。」

「・・・」

「運命を自分で切り開く・・・確かにそれも重要です。
 しかし、私達の言葉にも少し耳を傾けて頂けないでしょうか?」

「レイ・・・。」

「大丈夫ですよ。彼女・・・フレイアには貴方達は会える・・・いや、絶対に会うことになるのですから。」

「・・・?、どういう事です?」


相変わらず、不機嫌をあらわにしているレイスを他所にヴァニラが代弁してティンクラルに質問する。

ちなみに、グレイは結構汗だくな状態・・・ヴァニラにはどうにかすると言ったものの、

ここまで不機嫌だと、どういえば良いのか・・・内心、不安でいっぱいと言った感じである。


「彼女は時を待っていると言う事です。その内・・・彼女からコンタクトがあると思います。」

「・・・え!?」

「流石に真意までは分りませんが・・・彼女・・・いや、彼女達も貴方達に会う目的があるようです。」

「目的・・・?」

「ごめんなさい、その内容までは分りません。ただ・・・大まかにそういう予感がしてるだけだから・・・。」

「・・・本当に・・・だな?」


レイスが少年に自分から口を開く、名前だけではなく、知らないはずの自分のコードネーム・・・

そして、フレイアについての情報、その数々の言葉がレイスを渋々ながら納得させる事になったのだ。

そんな様子を見て、グレイは少しだけ安堵を覚えていたようだ。

もし、いい加減な物だったらレイスに何を言われるか分らないのだから・・・。


「ええ・・・これだけは絶対です。予想と言う訳で証拠はお出し出来ませんが、そうですねぇ・・・。」


何か考える様子で頭を少しつつくティンクラル。そして、少しして懐からある物を取り出した。

それは、紅い宝石・・・。完全にまで赤く光る美しい宝石。光り輝くその宝石をレイス達が

見入っていると、ティンクラルはその石の説明をしだした。


「紅の石・・・そのままの名前ですが、世界にひとつしかないと言う貴重品です。」

「・・・?」

「この石は・・・まぁ、見てもらった方が早いです。」


そう言うとティンクラルは席を立ち、今いる部屋の少し広い場所に立つ。

そして、自分のマテリアル・チップを取り出して詠唱に入った。

赤く光るその魔力は、炎属性だと言う事を物語る。そして・・・


「炎霊、我が手に集いて紅き弓となりて、灼熱の裁きを彼に与えん。
 諸悪たる心をその大いなる力を持って燃やし尽くせ!!バーニング・ボウ!!」


炎の弓を自らの手に練成したと思えば、それを自らの懐にその弓を押し付け・・・放つ!

リオス以外の全員があっけに取られてその光景を見ていたが、結果は意外なものだった。

明らかに高温を持った炎の弓で白いローブごとその身体は燃やされるかと思われたが、

燃えるどころか、炎は拡散して消えていく、片手に持っている紅の石が赤く光りながら・・・。


「見ての通り、この石の効果は炎属性の防御・・・それも完全にです。」

「完全に?」

「はい、完全にです。フレイアの超高熱にもこの石があれば耐え切れるでしょう。
 燃焼だけではなく、熱にもこの石は効果を表しますから。」

「これが人質と言う訳か?」

「ええ・・・僕自身が行っても良いんですけど、あいにく僕は戦闘は不得意で足手まといにしかなりません
 僕の代わりと言う事で持っていって下さい。もしも、予想が外れたら、その石は差し上げますよ。」


ティンクラルがそう言うと、レイスは少し考える様子で外を見る。

今まで、そういう類を信じてはいなかったが、流石にここまで言われたら・・・信じるべきなのだろうか。

己の中の葛藤を戦いつつ、数分間考え込む。ヴァニラとグレイがその様子を不安そうに見る中、

ティンクラルは相変わらず、笑顔でペースを崩さず、リオスは黙って柱にもたれながら立っていた。


「・・・分ったよ!お前の言うことを信じてみよう。」

「レイ!!」

「情報が無いんだ・・・結局待ってることになるだろうな。ここまで言われたら、流石に信じる以外ない。」

「良かった・・・それと、お願いがあるのですが・・・。」


ティンクラルが、安堵ともいえるようなため息をつくと、リオスの方に顔を向ける。

リオスも分ったと言うように頷く・・・なんとなく、納得していない顔をしているのだが・・・。

レイス達は何となく分からない様子でその様子を見ていたが。


「何にしても、伝達する人間は必要だと思います。
 彼を・・・リオスを連れて行って上げてもらえないでしょうか?」

「こいつを・・・か?」

「彼が襲った事は改めてお詫びします。彼は、貴方達の力を試したかったのだと思います。」

「試す・・・?」

「ええ・・・貴方達が、自分と行けるだけの力があるかどうかを・・・ね。
 彼には前々から同行するように言ってましたから・・・。」

「俺達がここに来ることを分っていたからか?」

「ええ・・・いきなり話しても彼も初対面の人間とはついていきませんからね。
 自分が認めた人間としか行動しない・・・彼はそういう人間です。」

「・・・また、なんつーか・・・友達いないだろ?あんた。」

「でも、彼は根は優しい人間ですよ。」


リオスに正直な意見(皮肉とも言うが)を述べるグレイにリオスは余計なお世話だとばかりに睨み付ける。

ティンクラルの弁護もむなしく、レイス達にはダーク系のキャラと言う認識がされてしまったらしい。

まぁ、実際そうなのであり、否定しようが無い事実なのだが・・・。

それはともかく、レイス達はティンクラルの申し出を受けるかどうか相談する。いきなり襲ってきた人間を

連れて行けといっても、当然ながら無理があるし、もしかしたら罠かもしれない・・・。

そういった疑惑が膨らんできていたからだ。

そして、数十分後・・・。


「分かったよ。戦力も欲しいし・・・リオスをこっちに貸してもらえるかい?」

「ええ、まぁ、断られても勝手についていくように頼んでいますけどね。」


したたかにとんでもない事を言うティンクラルに面を食らいながらも、リオスの動向は決定した。

不安が無いのは事実なのだが、何となく大丈夫だろうと言う確信の無い安心がティンクラルから

感じられたと言うのと、確かに戦力が欲しいと言う事で、2:1で決定したようだ。


「ところで・・・みなさん、これからどうします?」

「え・・・?」

「よろしければ、ここに泊まっていってもらいますか?部屋数はギリギリながらありますし、
 今から森を抜けるとなるとなかなか面倒ですよ?」


見ると、もう日が沈み暗くなっていた。この森では魔物がそんなにいないとなっても、

完全と言う訳でもなく、夜に活性化する魔物も少なくない・・・それに夜の森は歩きづらいと言う事もあり

レイス達はその好意に甘えることにした。ところで1つになる事がレイスに浮かんだ。


「ところで、ここの食事って誰が作っているんだ?」

「ああ・・・リオスにしてもらってます。大丈夫ですよ、彼は料理の腕は一流ですから♪」

「だったら・・・リオスがいなくなったら?」

「その時は僕が作ります。まぁ、人並みには作れるつもりですから。」


と言いつつ、リオスに3人の目線が向けられる・・・何と言うか、人は見かけによらない?

そんな言葉が顔から出るかのごとく、3人の頭に共通して浮かんでいた。

実際、その夜の料理は美味であり、普通に面食らっていたレイス達だったのだが・・・。


「今日は、世界の広さを改めて思い知ったよ・・・。」

「・・・何か言ったか?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ。」


グレイが正直に感想を述べる。おそらく、レイスもヴァニラも同じ考えなのだろう。

いろんな意味で驚きの連続だった1日が過ぎて、その翌日・・・新たなメンバーを加えて、

レイス達がティンクラルの家を後にしようとしていた。

が、ティンクラルが真剣な顔つきでヴァニラを引き止めた。


「ヴァニラさん・・・少し良いですか?」

「なんでしょうか?」

「貴女は・・・おそらく、近い内に何かしらの不幸が起こります。」

「え・・・?」

「僕も何かは分かりません。しかし・・・確実にそういう予感がするのです。」

「・・・。」

「でも、それに負けないで下さい。貴女は強い人のはずだから・・・精神的には3人の中に誰よりも」

「強い・・・ですか?」

「ええ、強いはずなんです。だから、自分自身に負けないで下さい。」

「ちょっと、要領が得にくいんですけど・・・とりあえず、気をつけておきますね。」

「ええ・・・気をつけて。特に・・・」

「・・・?」

「ヴァニラ!何やってるんだ?置いていくぞ。」

「あ、レイが呼んでますから行きますね。忠告ありがとうございます。」

「ええ・・・お気をつけて・・・。」


何か分からない様子でティンクラルのもとを去るヴァニラ、

その姿を見て、ティンクラルは珍しく憂いの表情を浮かべていた。

そして、ヴァニラが去ったその後、ティンクラルはポツリと口に出す。それは・・・


「ヴァニラさん・・・貴女はレイスさんに殺される・・・。
 どんなに予言しても、運命は変えられないけれど、絶対に負けないで・・・!」


それが何をさすのか・・・何を物語るのか・・・それは誰にも分からないが、

その不吉な予言を見てしまったティンクラルには分かっていた。

どんなに予言をしても、どんなに分かっていても、運命は変えられない事を・・・。

そして、それが分かる故に自分自身が無力であると感じられる事を・・・。


ティンクラルの言葉・・・新たな仲間・・・不安も多いがあるが希望もある、

その少ない希望をレイス達は信じウォスカへと帰っていった。

陽光が照る森を抜け、馬車を走らせながら・・・。

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